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真夜中の出来事 1/2
※ルカとカイトが人外です。


(すっかり遅くなっちゃったなー…)


真っ暗になった道を金の髪を揺らしながら少年―――レンは歩いていた。齢十四歳のレンが歩くにはあまりにも危険な時間はお巡りさんに見付かれば即、補導だろう。気の強いレンは悪いことをしてみたい年頃で、近所の年上達に混じって遅くまで遊んでいる自分のことを大人だと見ている傾向があり、お巡りさんに見付からないかと頻りに辺りを警戒するもその足並みは軽やかだ。
近くをお巡りさんが通れば実年齢より随分老けて見える高校生の先輩が背中に隠してくれるぐらいには可愛がられているレンは、今日も日付が変わるギリギリまで遊んでいた。ようやく帰路についた道は街灯のおかげでそこまで暗くなかったが、こんだけ明るかったら姿が隠せないだろと、逆にレンを煩わしくさせる。

家まであとは角を曲がるだけ。そこまで差し掛かった時だった。


「もし。そこの方、」


突然声を掛けられた。それまで自分以外、誰も見当たらなかったレンは驚いて振り向く。明るい街灯の元、その人は全身をすっぽり覆う真っ黒い布に身体を隠し、目深に被ったフードの下でクスクスと笑っていた。

―――瞬間、レンの脳裏に嫌な予感が駆け巡る。怪しすぎる出で立ちは世知辛い世の中に生まれたレンには死の宣告をされたように感じたのだ。


(に、逃げなきゃ!!)


あんなに煩わしかった街灯がありがたいものになった。真っ黒い布の下でもその人の身体をしっかり照らす白い光は相手の行動を見るには十分で、これが街灯のない道だったら声を掛けられることもなく切り裂かれていたかもしれない。震える足で姿勢を低くし、一呼吸置いて一気に駆け出す。防衛本能のまま走ったレンの足はいつもより軽く、速かった。
とにかく逃げることに全力だったレンに、しかしその人は信じられないスピードで追い付くと近くのコンクリートブロックで出来た壁に幼い身体を押し付けた。


「――――――ッ!!!!!」


殺される―――!!ただ逃げるという本能のみで動いていたレンは感覚神経が研ぎ澄まされており、不意を付かれた拘束にも一瞬で状況を判断すると、ただ絶望した。死への恐怖に四肢をばたつかせる。


「は、はな…ッ!離してぇ!!」

「ふふ、そう嫌がらなくてもよろしいですよ?悪いようにはしません。」

「やだッ!やだあッ!!」


かつてこれ程までに悪いことをしている自分を責めたことがあっただろうか。やっぱり社会のルールは守らないといけないんだ。今更そう思っても、もう遅い。レンは心の底から反省した。どうか助けて下さいと、こんな時ばかり都合良く神様を頼った。

強固な拘束から逃れることが出来ない。死の直前に見えるという走馬灯のようなものまで走る。幼い頃、いつも一緒にいてくれたお母さん。休みの日にキャッチボールをしてくれたお父さん。大きくなるにつれて共働きの二人は滅多に帰って来なくなったけど、帰って来た時にはいつも自分を気にかけてくれた。反抗してばかりの自分のことを、それでも愛してくれたんだと、ようやく気付いたのだ。両親への恩返しも出来ないまま、死ぬなんて出来ない。

いつの間にか自分の背中はコンクリートブロックではなく拘束している人の身体に預けられていた。数歩移動し、その人は叫ぶ。


「お兄様!お待たせ致しました!」


仲間を呼ばれた。反射的にそう判断したレンは急いで正面を見る。
一体何人で、どんな武器を持っているのか。視覚に入れた時、その恐怖は一層高まるだろうが、何も分からないままというのが今のレンが最も恐れることだったのだ。
思わず上げてしまった顔で見たものは、

…恐怖でも、絶望でもなかった。

静かに佇む、青年。背中にいる人と同じ黒いマントを羽織っているがフードは被っておらず。その顔が街灯の元に照らされている。
まず思ったのは、優しい……本当に優しい笑顔だった。口角をほんの少し上げ、とろんとした目元は柔らかく。爽やかな青い髪と青い瞳は海のように綺麗で、思わず見とれてしまった。彫刻のように整った顔立ちは同じ男でも美しいと思えるほどで、レンも例に漏れず。自分の状況を忘れて見とれてしまったほどだ。

その人はレンを一瞥するとクスッと肩を揺らす。優しい笑顔が少年のようなあどけないものになって、ドキッと心臓が跳ねた。そんなレンの後ろで、もう一人の黒マントが叫ぶ。


「ささっ、夜の空気で冷えすぎないうちに召し上がって下さい!今夜の獲物はとても素晴らしいですよ!!」

「うん…そうしたいのは山々なんだけどね…無理だよルカ。離してあげて?」

「な、何故です!?」

「その子、男の子だよ。」


青い髪の彼に言われたルカと呼ばれた黒マントは「え!?」と驚き、そのフードを慌てて後ろに避けた。途端にふわりと降りてきた鮮やかな桃色の長髪。ぱちくりと瞬くツリ目気味の瞳は目の前にいる彼と同じ色で、整い過ぎている顔立ちは美女と呼ぶに相応しい。
もちろんレンはびっくりした。美貌もそうだが、何より自分を捕まえていたのが女性だったことに驚いたのだ。ハスキーな低音で喋られていたことと、錯乱していたことでまったく気付かなかった。

たっぷり十秒ぐらいだろうか。じっと自分を見つめる彼女が頭の先から爪先までを何往復も眺めたあと。一度俯き、ぷるぷる震え出した。


「っ、あなた男でしたのぉー!!!!」

「うわああああ!!!??」


いきなり肩を掴まれて激しく揺さぶられる感覚にレンは目が回りそうだ。

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あきゅろす。
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