甘くてちいさい 三子蠍/元拍手文/バレンタイン 「バレンタイン?」 チヨから初めて聞いた言葉。 「そうじゃ。2月14日に自分の想っている相手にチョコレートをあげる日じゃよ」 その言葉に目を丸くする。生まれてから十年も生きていないサソリにはただでお菓子を貰える日としか頭に入らなかったようだが。 「2月14日って今日ですよね…?」 「そうじゃな。だから…」 チヨはサソリの手をとり中に小さなチョコレートの詰め合わせを握らせた。 「わぁ!!ありがとうございますチヨバァ様!!!」 かわいい熊の形やリボンの形や星形や様々な形があった。 サソリはその中からひとつとって小さな口の中に入れた。 「甘い」 かわいらしく笑ってそれから何かを思い付いて座っていた椅子から降りた。 「サソリ?」 「ちょっと出かけてきます」 行ってきますとサソリは家をでていった。 コンコンと三代目しかいない風影室にノックが響く。 「誰だ?」 「僕です!サソリです!」 「サソリ!?」 三代目は急いで扉を開けると腰に小さな赤毛が飛びついてきた。 あまりにかわいらしいその行動に優しくサソリの頭を撫でる。 「どうしたんだ?」 「今日、何の日か知ってますか?」 三代目はふと考えて 「2月14日?」 「今日はチョコレートの日ですよ」 あぁ、と頷いた。今この瞬間まで気づかなかった。今日はバレンタインか。 「三代目にもあげます」 サソリの小さい手からさっきチヨからもらったチョコレートがあった。 「いいのか?」 「はい!」 「普通は好きな相手にあげるんだぞ?」 「三代目も好きですよ」 「そうか…ありがとう」 三代目も、というのが気になったが今はサソリがくれるだけでも嬉しかった。 「来年は義理じゃなく本命で頼むよ」 三代目はサソリの頬に愛しさを込めてキスを送った。 サソリが本命としてチョコレートをあげたのは数年後の話。 END |