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笑う鬼と泣きむし



結局、私の常套手段は逃げる事だった。



目をつぶって、耳を塞いでしまえば。嫌な現実を見なくてすむ。悩まなくて、


「ったく、お前はガキか!」


体操座りをして、顔を伏せていた私を。


乱暴に、けれどしっかりと掴みながら。アニキさんは立ち上がらせた。



「…あ、アニキさん……なん、で」


「死にそうな面して、火薬倉庫に駆け込むヤツ見て、追わねェ訳はあるめェよ?」

溜め息をつきながら、アニキさんは有無を言わせない視線で私を貫いた。責めるようなものではない。
頼もしさと、優しさが混じっている。アニキさんらしい目だ。



捕まえられたままの、腕が熱を持っていく。


よくよく考えると、薄暗い倉庫でこんなに密着して、


「…恥ずか、しい…」


「…何言ってんだ、野郎同士のクセによォ」

何故か、アニキさんの目が挙動不審になった。気のせいかまた体温が上昇している。


ぱた、と目が合うと。いつもは不敵な顔が驚愕に変わる。

「…泣いてた、のかよ……」


アニキさんのもう片方の手が、私の頬に伸びて。残っていた涙の後をなぞった。

そして、荒々しい手付きで私の頭をわしゃわしゃと撫でる。


「ぁ……」


なんでだか、安心する。
優しいのに、荒々しい手付きも。穏やかに眇められた目も。


貰った事が無かったから。



「……っふ、ぅ…ぐすっ…」



「そこで泣くかァ…」



「す、すみばせ…っう」



また泣き出した私を、咎めるでも無く黙って撫で続けるアニキさんの手に、とても安心させられた。

大丈夫、

大丈夫だから、な?


囁かれた、言葉に。
胸が苦しくなった。



アニキさんは、悪くない。
だって戦う事や領地を広げていくのが武将でしょう。
当たり前だもの。


悪いのは私じゃない。

一応、敵軍であろうこの軍船に男装までして、生き延びたいと願って、自分の生まれ育った土地が、戦場になろうとしているのに。



敵軍の主将であるアニキさんの、この手が好き。

優しさに、狂いそうになる。



怖い。



「…離して下さい、」


怖い。


「…アサギ?」



怖いの。




「離して…!」






好きに、なってしまったら。
私はどうなるのか、怖い。





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