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笑う鬼と泣きむし


床とこんにちはする前に、私の体は誰かに引き寄せられた。


「大丈夫かよアサギ!?」


うっすらと瞳を開けて、元親を見上げる。慌ててるやら、心配してるやらで憔悴しきっている彼の表情なんて珍しいじゃないか。


…ふと、誰かと面影が重なる。




私を心配する、優しい声。


私を責める、冷たい視線。




だれ、だっけ。



***



『我の元から去ると言うのか…』

子供の声だが、まるで感情を押し殺しているような平淡な声に幼い私は、なんと言ったのだろう。

『五月蝿い!言い訳など聞く気も起きぬわ…!』


平淡だった声に怒りが含まれて、私を突き飛ばした。


そうだ、そうして、私は頭から。



***


ふと、気がつけば。
私は船内の休憩室に横になっていた。

むわり、と湿気というか熱気が襲ってきたがーー同時に濡れた布が顔に降ってきて、私は情けない声をあげてしまった。


「よぉ、起きてたかアサギ」

「…あ、兄貴…さん」

介抱していてくれたのだろうか、元親は桶に足を突っ込みながら私のそばに座っていた。

しかし、何かおかしい。



「……なんだ、そのよぉ」

「……まさか、」


そういえば、着物が着崩れている。襟元なんてガバッと開いてるし、これはもしや…


女だと、気が付いただろうか。


それは、やっぱり…


「貞操の、危機みたいな?」


「ぁあん?何言ってやがる?……オレが言ってんのは、その…ひでェ生傷のことだよ。勝手に見ちまって…すまねェな」



兄貴さんの言葉に、急に頭が冷えていく気がした。





私の顔と首、そして胸にかけて幾つかの傷がある。
私が、鶴ちゃんと比べられる要因はこれも関係あるがーー。


かつての友…いや『主』の事を思い出して、私は懐かしいながらも悲しい気持ちになっていた。





補足)戦国時代だし、子供くらいの歳でも許嫁くらいは有りかなと思います。



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