笑う鬼と泣きむし
元親さんと!
けれど私は、紛れもなく姫だったのだ。蝶よ花よと育てられた訳じゃないけれど、いわゆる箱入り娘ばりには。
ついでに嫁入り前だし。
逢瀬なんてした事もない。
何が言いたいかと言うと…
***
「男なんて…!」
あぁもう駄目だ。やっぱり元親は鬼なんだ。
海賊っぽい格好に着替えさせられるし(胸?残念ながらさらし捲く程ないんです)、腕が死にそうになる位重い荷物持たされるし、
何より…
「おう新入り!きりきり働けやっ!」
「細っこいな!飯くえよ!」
「今日は酒盛りだぁあ!」
あはは、無理!ムサい!
開始3日で挫けました。
私は甲板に座り込んで溜め息をついた。けど、そんな中で癒やしが!
バサバサと羽音が近づき、私の頭に鳥さんが降り立って「モトチカ!」と鳴いた。
何故だか鳥さんは私の頭が好きらしい。
「本っ当に可愛いいぃ!ほら、元親さんばっかじゃなくて私の名前も呼んでみて鳥さん、朝霧って…」
「何してんだアサギ?」
「……、ぁ」
上の方から、元親さんの声がしたかと思うと。彼は軽々と跳んでその身を私のそばへと…
「って、退けよアサギ!」
「ぇ、あ!」
降ってきた元親さんに押しつぶされそうになりながら。
お互いの体がぶつかり合うだけで済んだ。
「ハァ、本当にてめェ鈍臭ぇなぁ……アサギ?」
「……っ!」
アサギ、は私が考えた男装名だ。
いや、最初に女の子って言っちゃえば良かったんだけどね……
***
時は少し遡って2日前。
元親さんに船内を案内してもらい、作業服を渡された時。
あぁ…男物だなーと思って。
私、女ですよと訂正しようとした時だった。
「あぁ…ちっと言い辛いんだがよ……お前、あんまり1人で彷徨くなよ?」
「……な、んでですか…」
本当に言い難いのか元親さんは、顔色を赤くしたり青くしたりしながら、珍しくどもっていた。
「いや、俺は違うけどな?!俺は違うけどよォ……お前、女みてぇだからよ、その……」
『背後に気を付けろよ』と死にそうな声で言った元親さんは、また頭を壁に打ちつけて額から血を流す。
この船には、お化けでも出るんだろうか。
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