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笑う鬼と泣きむし


あなたは唯一、私を欲しいと言ってくれた。
でもそれに、相応しいのは私ではないのよ。


昔も、今も。


***

「気が晴れたか?」

「……松寿丸様、は…毛利…元就様なの?」


「…あぁ」


縁側を歩いて、中庭へとやって来た。白い砂で模様が描かれていたはずのそこは、荒れ果てていた。

小さな池の、小さな橋に二人佇む。


「よくこうして、水鏡の月に手を伸ばしたものですね」

「あぁ…」


なにやら歯切れが悪い。松寿…いや元就様は不機嫌そうな顔のまま、水面の月を見ていた。


「……すまぬ」

「はい?」


「捨て駒と言えども、あれは我の物であったのだ……そなたが大事なく済んだ事が、せめてもの救いだな…」

「……そう、ですね」


一瞬、父上の悲鳴が頭をよぎったけれど。不思議と悲しくはなかった。親不孝者かもしれないけれど、こうして無事で居られた事に安心した。

そして、

なんとなくだけど、アニキさんに助けられた気がした。積み重ねて来た日々が私に力と勇気をくれたのだと思う。
そう思うと、なんだか嬉しい。


「…どうした、急に上機嫌になったな」


「はい!アニキさんの事を思い出していたら、なんだか嬉しくなって…」


「……アニキ、だと?」

急に声のトーンが低くなった元就様は、人相か悪くなっていた。何やら「許さぬ…」と呟いているけれど、どうしたというのか。
男の人って、分からない。



一度、思い出すと堰を切ったように感情が溢れ出した。
アニキさん。


結局逃げ出してしまった、私の……


「……」


「…何を、泣いている?」


元就様が怪訝そうな顔で尋ねて来たが、答えられそうにない。口をパクパクとさせる私に、苦笑して彼はただそこに佇んで。ポツリと呟いた。


「…昔から変わらぬ、泣き虫め」





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あきゅろす。
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