笑う鬼と泣きむし 3 あなたは唯一、私を欲しいと言ってくれた。 でもそれに、相応しいのは私ではないのよ。 昔も、今も。 *** 「気が晴れたか?」 「……松寿丸様、は…毛利…元就様なの?」 「…あぁ」 縁側を歩いて、中庭へとやって来た。白い砂で模様が描かれていたはずのそこは、荒れ果てていた。 小さな池の、小さな橋に二人佇む。 「よくこうして、水鏡の月に手を伸ばしたものですね」 「あぁ…」 なにやら歯切れが悪い。松寿…いや元就様は不機嫌そうな顔のまま、水面の月を見ていた。 「……すまぬ」 「はい?」 「捨て駒と言えども、あれは我の物であったのだ……そなたが大事なく済んだ事が、せめてもの救いだな…」 「……そう、ですね」 一瞬、父上の悲鳴が頭をよぎったけれど。不思議と悲しくはなかった。親不孝者かもしれないけれど、こうして無事で居られた事に安心した。 そして、 なんとなくだけど、アニキさんに助けられた気がした。積み重ねて来た日々が私に力と勇気をくれたのだと思う。 そう思うと、なんだか嬉しい。 「…どうした、急に上機嫌になったな」 「はい!アニキさんの事を思い出していたら、なんだか嬉しくなって…」 「……アニキ、だと?」 急に声のトーンが低くなった元就様は、人相か悪くなっていた。何やら「許さぬ…」と呟いているけれど、どうしたというのか。 男の人って、分からない。 一度、思い出すと堰を切ったように感情が溢れ出した。 アニキさん。 結局逃げ出してしまった、私の…… 「……」 「…何を、泣いている?」 元就様が怪訝そうな顔で尋ねて来たが、答えられそうにない。口をパクパクとさせる私に、苦笑して彼はただそこに佇んで。ポツリと呟いた。 「…昔から変わらぬ、泣き虫め」 [*前へ][次へ#] [戻る] |