半透明な居候。
イヴァンという
みんなで、アーサーさんの家に帰る途中に雪が微かに降ってきた。驚いて空を見上げると、隣でアルが身を縮めている。どうやら寒いのは苦手らしい。
「Wow!雪降って来たじゃないか!寒いから振るかとは思ってたんだぞ!」
「…ねぇ、居候?雪ははじめて?」
マシューの問い掛けに、薄れていた記憶を掻き分けて。首を振った。
「うぅん、雪は……」
そういえば、アーサーさんの家に来る前に私は誰かとこうして雪を見た。
*****
昔の話。
その日も雪が降っていた。
半透明な私の頭上にもちらちらと雪が積もる。
突然降り出した雪を避けるように街中から人が居なく無くなった道はなんだか寒かった。
ふと、手袋を外して雪の結晶を受け止める。
しかし、手に積もる雪は一向に溶けない。
「……まぁ、いいか」
いよいよオバケ呼ばわりされてしまうなぁ、と苦笑していると。
手に影が出来た。
「君って、雪の精か何かかな?」
今思うと、アーサーさんみたいな事を言う人だったと思う。
私が顔を上げるとにっこり微笑んだ青年が居た。大柄で、長いマフラーを巻いた何だか全体的に白っぽい人。
「…私が、そんなファンシーな出で立ちに見えますか」
「ううん?ぜーんぜん、
ただ…雪が手に積もってるから、君も冷たいのかと思ってね」
そう言って微笑んだ彼は、長いマフラーに顎をうずめて白い息を吐いた。
…人間、だよなぁ?
と確認していると、彼の背後に何かが居るような気がして、
私は身構えた。
すると彼は、意外そうに
「…君、見えるんだー?僕の友達の冬将軍くんが」
と楽しげなトーンで話だした。
「もしかして、急に雪降り出したのって」
「うふふ、僕は知らないよ」
楽しげに笑う彼の顔に、僅かながら陰りが出来た。
「雪が降り出したら、みーんな居なくなっちゃった…嫌いなのかな?」
「…私は、好きですよ。雪も冬も…季節の中では一番」
そう答えると、顔はキョトンとしてからまた微笑んだ。
…さっきと比べて、なんだか暖かくなるような笑みで。
「…そう、でも僕はヒマワリが咲く季節がいいんだぁ…」
「…ヒマワリ、か…。私も見たいな…」
私は新たな季節を、迎えられるだろうか。そんな私の心の内を知ってか知らずか、彼はまるで祈るように話した。
「……じゃあ、ヒマワリが咲いたら見においでよ」
「え、」
大きな体を折るようにして、彼の指と私の指が絡まる。
じわり、と手袋越しに体温が伝わった。
寂しげに笑う彼を、私は忘れない。
*****
「…この雪、見てるかなぁ…」
空を見上げながら、彼を思っていると。何故だか両隣にいたアルとマシューが不機嫌そうに「なに笑ってるんだよ」と口を揃えた。
「恋人でも思い出してるあるか、若ぇのは良いあるな」
やれやれ、と肩をすくめている耀さんに「違いますよ」と否定しようとしたのだが、
「What!?どういう事だい居候!俺の事は遊びだったのかー!?」
「
…違うよね?居候はそんな子じゃないよね?僕信じてるからね…!」
と、再び両隣から挟まれてしまったのであった。
彼等が何故、私にこんなに構ってくれるのか。その時の私は知らなかったし、気付こうともしなかった。
そして、
あの彼は、イヴァンという事も
そして、私達はまた再会するという事も。
私は知らずにいた。
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