半透明な居候。
アーサーさんに
「うぉっ!な、なんだよお前…!」
あ、見つかってしまった。というか話し掛けてくれて少し嬉しいな。いつも逃げられてばかりだったし。
しばらく使われてないであろう、屋根裏の物置で私は発見されてしまった。
私を見つけたのは、私によく似た存在だけど全然違う国……いや、人?
最初は驚いてくれたのに、次の瞬間には普通に話し出してしまう。
「ひとりでニヤニヤすんな!あのな、ここは俺の家なんだからな!」
「…すいません」
「わ、分かりゃ良いんだよ……。あ、お前腹は減ってるか?こんな所にいないで降りてこいよ」
懐中電灯で私を照らしていたかと思うと、いきなりツンデレしだしたその人……やっぱり国?を私は眺めて首を振った。
「申し訳ないですから、謹んでお断りします」
「なんか菊みたいな奴だな…、」
「居候させてもらうだけで十分なので」
「なるほど、やっぱりお前なんかルートの兄と同類だ」
何故だか腑に落ちない返しをされたが、彼は追い出したりはしなかった。彼は天使なんだろうか(と、聞いたら何故か苦々しい顔をされた。)
それどころか、半透明な私の手を取り。
暗い屋根裏倉庫から、私を引きずり出したのだった。
***
アーサーさんに、ご挨拶。
***
「…お前さ、俺たちと同じ存在だろ」
「……はぁ?」
リビングのような所まで引きずられて来て、紅茶とどす黒いダークマターを出された。やっぱりこの人は悪魔なんだろうか。私にトドメを刺す気なんだろうか。
「…だが、見た所その国はもう無い…のか」
私の事なのに苦しそうな顔をする彼に、私はまた首を振った。
「よく覚えてないんですけど…生まれるはずだった、んです…けどなんか中途半端だったのかこんな姿に…。今じゃ名前も忘れてしまって、」
「……そうか、俺の事はアーサーと呼んでくれ。その方が気が楽だろ?」
アーサーさん、か。
「えーと、では私の事は居候とでも呼んで下さい」
「おう、分かった。…さっそくだが居候、お前いつからあそこに居たんだよ?」
「うーん…よく覚えてないんですよね。気が付いたらひとりで…」
私の答えに、足を組んだまま何やら考え込んでいるアーサーさんは肩を竦めながらため息を付いた。
「…まぁいい、事情はだいたい飲み込めたしな。とにかくお前は此処に居ていい」
「…まじですか」
「あぁ、但しひとつ条件がある」
そう言うと、彼は内緒話をするように口元に手をやって私を手招いた。いそいそと近づくと、彼は照れくさそうに「独立しようとしたりすんなよ」とツンデレた。え、いや独立て。
私消えかけてるんですが。
もちろん守ります、と頷くと。すごく嬉しそうな顔をした次の瞬間「別に嬉しくなんかないんだからな」とツンデレた。これが彼のデフォルトなんだろうか。なんて厄介な。
「…で、どうして俺の手作りスコーン食わないんだよ!」
「…スコーン?どれがですか」
「いや、分かるだろ。ちょっと焦げたけど」
あぁ、まさかあの暗黒物質の事デスかアーサーさん。ちょっとどころじゃないですよアーサーさん。
「炭化してるじゃないですか」
「ばっ…ちげぇよ!これはあれだ、チョコレートだ!」
「さっきと言ってる事が違いますよアーサーさん。やっぱり私にトドメを刺したいんですよね?」
断固として口をつけない私に、アーサーさんは少し落ち込んだようで流石に良心が痛んだ。これはあれだ、多少の恩義は私だって感じてはいるんだから。
食べる、べきか。
私が、スコーン(には決して見えないダークマター)に手を伸ばそうとした時だった。
「早まるな、Mademoiselle!」
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