ゆっさゆっさと、多少なりとも瓦礫は減ったがいまだに街としての機能を果たせていないダリルシェイドを大木を担いで歩く。
道行く人々は一瞬目を見張るものの、その正体が俺だとわかるや否や何ごともなかったかのように、むしろどこか納得した様子でそれぞれの日常へと戻っていくのはどうなんだろう。誰か一言くらい何か声かけろよ。
そう思ってたんだが。

「よお、兄ちゃん。相変わらず妙な事ばっかやってるじゃねえか」
「前言撤回。もう構ってほしいなんて願わないからどっか行け。俺に関わるな」

そうかそうか、俺がこうやって常識外した行動に突っ走るのも、ダリルシェイドの人達にとってはもはや想定内か。やっぱりデフォか。
とりあえずそんな鬱憤をぶつけるように(傍迷惑にも大木を担いだまま)走り出し、つい何時間か前に皆で苗を植えた場所までやってきた。
俺がでかけている間に少し晴れ間が覗いたからか、植えてすぐはどこか元気のないように見えた葉も青く瑞々しい色を浮かべている。
これなら近々根付いてくれるだろう。小さく笑みを浮かべると、俺はその場にしゃがみ込んだ。
重さは苦じゃないがとりあえずどこかに埋めてしまわないと身動きもままならないなと、地面に穴を掘っていく。
道具なんてないから素手だ。いっそ晶術でも使ってやろうかと思わなくもないけど、近くに他の小さな苗もあるから迂闊な事はできない。
それに、これは生身の手でやることに意味があるんだ。瓦礫を撤去した時、何の力も使わずにひたすら体を動かしていたように。

「全く……妙な光景を作り出す事にかけては天才だな、お前は」

担いでいる木ではないもっとくっきりとした人影が、俯く視界に映りこんできた。

「そして相変わらず誰かに頼ろうとしない。一人でやるにも限度ってものがあるだろうが」

その影は向かいでしゃがみ、俺が掻いていた土に手を伸ばす。
黒い袖から覗く白さが、いやにはっきりと目についた。

「それとも、また僕には何も告げないままか?自分一人だけがこうやって土に汚れて、周りには綺麗な面ばかりを見せて」
「別に、そんなわけじゃ」

ない、と言い切れない自分がいた。
だって、皆はとても綺麗だと思ったんだ。
俺が羨んだ、仲間のためというだけで自分の感情に素直に行動できるスタンやカイル。彼らだけじゃない、出会ってきたたくさんの人々。
問えばおそらくほぼ全員がありえないと苦笑するかもしれないが、等身大の人間らしく悩み、苦しみ、笑い、泣く姿がとても綺麗だった。
俺自身、生まれにしろ何にしろ普通の人間とやらからかけ離れているがためのコンプレックスも混じっているのは否定しない。
だけど、綺麗だと思ったものを汚したくない気持ちがあったっておかしくないだろう?

「今日からはぜひ、Mr.過保護と呼んでくれ」
「了解だ、Miss.過保護」
「植え終わったらちょっと表出ろやテメェ」
「既に屋外だが、これ以上どこに出て行けと?」

白い指が、土と泥に塗れていく。
ああ、真っ黒だ。
そう思ったけれど、汚れたとは感じられなかった。俺と同じように土に塗れているはずなのに、何故だろう。
まるで根本から違うような、そんな気さえしてしまう。

(ああ、そうか)

気がする、じゃなくて、違うんだ。
俺は、人とは一線を引いた存在。限り無く似て異なるもの。

「・・・また何か余計な事を考えてるだろう」
「いやいやいや、そんな事はナイデスヨ」
「セリフが不審だぞ。あと身に覚えがないならとっさに額をガードするな。明らかに肯定してるようなもんだろうが」

いや、だってさあ、またデコにガツンと剣の柄とかぶつけられたら嫌じゃん。むしろ二度目はサクッといきそうなんだもの。主に剣の切っ先とか、凶器になり得る鋭利なものとかで。

「サクッだぜサクッ。何か効果音の軽さがかなり虚しいじゃん。あえてグサッとかバアンとかドキュンとかシュバババババッとかのがいいじゃん。ぽいじゃん」
「一体どういう状況が望みなんだ。僕の持てる力の限りで叶えてやる」
「謹んで遠慮させてもらいます」
「オプションであの世への片道切符付だ。お得だろ。ちなみに返品不可」
「いや、今さっき謙虚に生きて行くって決めたんでマジいいっす。気を遣わないでホントに」

坊ちゃんの力の限りあれやこれやされたら、何か俺の原形とどめてなさそうだし。

「……ホント、大丈夫だって。後ろ向きにはなってない」
「ならいいんだが」
「前を向いたまま澱みなく後方に歩いてるだけだから」
「何一つよくなかったな」

すこーん、とそれは素晴らしい音を立てて俯いていた後ろ頭に決まった空手チョップ。
何しろでっかい大木なんて抱えたままだったからそりゃあバランスが悪いことこの上ないわけで、

「ぬお、うおおおおっ!?」

ぐらりと揺らいだ身体は、けっこう掘り進んでた穴の中へと真っ逆さま。

「お前、案外暗くて狭くてじめっとしたところが好きなんじゃないか?」
「失礼な!どこぞのシャルと一緒にすんじゃねえよ」

どこか遠くで誰かがくしゃみをしたようだ。

「普段は馬鹿みたいに明るいくせに、妙なところで思考が卑屈だな。その間をとれば丁度いいものを」
「卑屈言うな。ちょっとばっかし人よりデリケートなだけなんだよ」

あ、位置的に自然と俺を見下しつつ鼻で笑いやがったコノヤロウ。

「木の方もちょうど根っこから入り込んだことだし、世界の平穏のためにもそこで埋まってろ。お前みたいな奇妙な物体が養分になるのは申し訳ないが、世界平和には変えられん」
「え、ちょ、俺ってどんだけ有害ですか?」
「僕の心の平穏を脅かす最たる原因その3だ」
「なんなわけその中途半端さは!しかも最近、俺の扱いに慣れてきた奴が心の平穏だの何だのよく言う……ちょ、待て!ホントに埋め始めるなっつーの!!」
「グッドラック、シェイド。キノコがはえてくることを願っている」





ぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ





「あれ、何か聞こえました?」
「私も聞こえたような……?」
「きっとどこかのちっちゃい黒ずくめが、らしくもなくうじうじとしてた馬鹿な親友に制裁加えてるのよ」
「ハロルド、すごく具体的だね……」
「その光景が目に浮かぶな」



[back][next]

36/45ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!