交差点一歩手前1
最近のクレスタには妙な噂が流れていた。
特にといって何か事件があるわけでもなく、のどかすぎて少々退屈を感じてしまうような街では、ちょっとしたことがすぐ村中に広まり、小さな騒ぎとなる。
今回の噂の発信源は、ミーハーな花屋の女の子だったらしい。

「もうすっごく綺麗な方だったの!ミステリアスっていうか独特の雰囲気を放っていらっしゃって、目と心の保養っていうのかしら?きっと豪奢な花束なんかがお似合いだと思ったんだけど、何でか木の苗を買っていっただけだったのよね。残念だわ……だけどね、その後の方もすっっっっっごく綺麗だったのよ!!黙って立ってるだけでも精巧なお人形さんみたいなのに、人懐っこい笑顔なんか向けてくれて雪みたいな銀髪が陽に透けてキラキラ輝いて……ああっ、もう思い出しただけでもくらっときちゃうわ!どうも最初の美人さんを追いかけてたみたいで、お花をお求めじゃなかったんだけど、パンジーを一輪買って私の髪に添えて下さったのよ!可愛いね、なんて微笑まれたら心臓が止まっちゃうところだったわ!ああ、お姉様……またお会いしたい!」





「……さっぱり分からないんだが」
「これでも一応簡潔に纏めてみたんだぞ?何せあの子も興奮状態で喋り続けるからさ」

あっという間に街中に広まった噂の真相を掴んできたロニは、いまだ借り続けたままの宿の一室でそう語り、腰掛けていた椅子の背にもたれかかって大きく伸びをした。
クレスタに着いて半月近くになるだろうか。
さすがに丸三日も意識のなかったジューダスはすぐに動ける状態でもなく、カイル達も旅をして帰ってきたばかりなのだからと、クレスタから出ずに様子を見ていた。
シェイドはいまだに姿を見せず、機動力はないながらに情報を集めるだけの日々を送っていたのだが。

「なるほどね〜。興味深いじゃない」
「ハロルド、今の話がわかったの?」
「その話の要点だけ纏めて考えればいいのよ。まず、登場人物が三人。当事者である花屋の女の子と、ミステリアスな美女と、もう一人は思わず興奮して支離滅裂になっちゃうくらいの銀髪美女。そのどちらの外見も花屋の女の子の主観であって、情報に対する信憑性はナシ、と」
「??」

ぽかんと首を傾げるだけのカイルとリアラに、苦笑したシャルティエが言葉を続けた。

「つまり銀髪の人は女の人じゃなくて、整った顔立ちをした男……シェイドかもしれないってことだよ」
「ま、可能性でしかないけどね」

釘を刺すハロルドだが、その瞳には何か予感めいたものを秘めていた。
シェイドが、レイスがすぐ近くにいるかもしれない。いや、たとえ運悪く会えなくても、この世界に帰ってきている。

「行くぞ」

そう言って立ち上がったのはジューダスだった。

「坊ちゃん、もう大丈夫なんです?」
「問題ない。むしろこれ以上寝ていたら身体が鈍りそうだ」
「元々どこか異常があったわけじゃないもの。私のサンプルに立候補することを許すくらいには十分健康よ☆」
「(あ、あれ、問題……ない、よね?ないんですよね?無性に不安なんだけど)」

困惑するシャルティエと違い、いい加減ハロルドの扱いにも慣れてきたジューダスはサンプル発言にもさらっと流してしまう。
「面白くないにゃ〜」と呟きつつ、ハロルドも旅仕度を始めていた。



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あきゅろす。
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