夜、コンコンと部屋の扉がノックされ、とりあえずマリアンかメイドさんだろうなーと思って特に気にもとめずに「どーぞー」と返事した俺の部屋に入って来た人物の姿を見て、俺は手入れしていた剣をうっかり取り落とし、危うく足の指とサヨナラする所だった。

「……どーするよ俺……明日は初の別行動だっつーのに雨か?雪か?霰か?いっそ冗談抜きで槍がふるかもな……人生の門出にはやっぱ晴れ渡る空の方がしっくりくるだろうに……はぁ……」
「僕がここにいるのが珍しいのは分かるが、そこまで言われる所以はない。……それとも、門出を祝して血の雨を降らせてほしいか?」
「謹んでお断りさせて頂きマス(汗)」

悪かったって、謝りますからその鞘から抜き出しかけてるシャルしまって下さい。(切実)

「……んで、どうしたんだよ」

取り落とした剣を鞘にしまいながら話を促す……んだが、リオンは黙り込んでドアの所で突っ立ったまま。マジでどうしたんだ?
不思議に思って恐る恐る近付いて顔を覗き込もうとしたら、何かを投げ付けられて咄嗟に受け止める。うん、ナイスキャッチ俺。

「なんだイキナリ……って、箱?」

それは、掌に乗るくらいの赤い小箱。しかもシンプルながらリボン付き。

「えぇっと、リオンさん?コレは一体…?」
「餞別だ。貰っておけ」

いやいや、命令形かよ?餞別って、ちっとも別れを惜しまれてる気がしねぇし……。

「俺に?……やばいな、明日は局地的な大雨で土砂崩れが起こり建物は倒壊、暴風雨のために俺の乗った飛行竜は操縦不能でダリルシェイド近海に墜落し、そのまま帰らぬ人へと…『シェイド、そろそろ……』
「うん、分かったって。もうやんねーから。な、落ち着け?どーどーどー」

再び刀身をあらわにしてるシャルを見て、もういい加減にしとこっかなーと思った。素直に反省。

「でも、なんでまた?」

開けていい?と目で尋ねたら、頷いてくれたっぽいから、包みを解きながら疑問を口にした。だってリオンが人にモノやるって、ついさっきまでなら想像もできなかったし。貰った今でも信じらんねーし。

「……僕はお前の誕生日なんて知らないからな」

……端的すぎてさっぱり分からねぇ。

「シャル、通訳ヨロシク」
『え?は、はい!実は坊ちゃん、誕生日にプレゼント貰ったお返しに何かあげたいと思ったみたいなんですけど、僕達、シェイドの誕生日って知りませんし、シェイド自身も記憶がないから覚えてないでしょうし……。だから、明日の任務の無事を願って何かプレゼントをあげよう、というわけで、今に至るわけです』

なるほど分かりやすすぎるくらいに分かりやすい説明ご苦労。今からリオンの照れ隠しと言う名の八つ当たりを受けてやってくれ。

「プレゼント、ねぇ……」

シャルの断末魔を心地よくもないがBGMに、箱の中に入っていた物を取り出してみた。それは、一対のアメジストのピアス。もっと妙な物が来るかと警戒していたからか、なんだか不気味だ。そうか……リオンの誕生日の朝の皆の気持ちが分かった気がする。

「僕は宝石の効果や意味なんてものは知らないからな。ただ目についたものを選んだだけだ」
『そんなこと言っちゃって。坊ちゃん、結構悩んでたじゃありませんか』
「シャル!!」
「………」

あー、……どうしよう。今すっごく心の中がドロドロしてるカンジ。
リオンにこれを貰えたことへの喜びと、そんなコイツを見捨てなきゃならないことへの罪悪感と、こんな理不尽な運命を作った何かへの怒りとが、全部ゴチャゴチャになって……。

「そ……っか、ありがとな」

そう言って、リオンの肩にぽすんと頭を乗せる。

「……シェイド…?」

今回の飛行竜の任務では、ソーディアンを狙ってきたモンスターの襲撃により、ただ一人の密航者を除いた全乗組員が死亡。その上、襲撃後の飛行竜は行方不明となる。
今まであまり考えないようにしてきたが、俺はそんな中を生きて帰って来れるのか?
元々存在しないはずだった俺は、どこまでこの運命に存在を許されていられるんだ?

『シェイド…?』
「……いつも、どこへ行っても独りなんだ。誰も、何もない。俺は、何も出来ないんだ……」
「おい、どうした?」
「だって、――は俺を認めてくれなかった。俺の――を許さなかった。なのに…!」
「シェイド!!」

強く肩を揺すぶられて、ハッと意識を取り戻す。
ヤバい……ついグチが……。

「……わ、悪ぃ、ちょっとトリップってたみたいだ。今言ったのは変人の戯言と思ってくれ。むしろ忘れろ」

もう寝るから、って言ってとりあえず二人の部屋から出て行く。そのまま自分の部屋に逃げるみたいに駆け込んで、パタンと閉じたドアに背をつけて座り込んだ。
はぁ……最近の俺ってなんかダメダメじゃん?少なくともシャル達と一緒にいた頃はこんなに感情がブレーキかからなくなることなんてなかった……よな?
このままじゃ、運命の時にアイツを見捨てられなくなっちまう。それだけは、駄目なんだ。その世界のことは、そこにいる者達の手で動かされるべきなんだから。
……でも、

「ピアス……嬉しかった、かも……」

どうか、ささやかな喜びを噛みしめる事を、許して下さい。



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