2 パチンと目の前で光が弾け、地にしっかりと足が着いた。ふわふわと曖昧だった自分という輪郭がはっきりと形になった、というべきか。 恐る恐る目を開くとそこは、どこか見慣れた、でも、見覚えのない部屋の中だった。 「ここは……」 呟いたと同時に、室内から何者かの苦しそうな呼吸を感じて、咄嗟に振り返るったシェイドの目に入ってきたのは、小さく膨らんだベッドと、その上に散らばった黒い髪。誰かが横になっているようだ。 現状がさっぱりわからないながらも、眠る誰かがそばにいるというだけで、自然と足音を忍ばせてしまう。 「エミリオ、なのか?」 ベッドで眠っていたのは、シェイドが知っているよりかなり幼い姿をした親友。 おそらく間違いはないだろう。面影がはっきりとあるし、幼さのせいかより姉に似て見えたが、この頃のルーティはクレスタの孤児院で世話になっていたはずだ。物が少なく小難しい本ばかり並ぶ殺風景な室内と、ルーティとがうまく繋がらなかった。 「……、っ……」 熱でもあるのか、頬は赤く、呼吸もどこか荒い。 シェイドはベッドの縁に腰掛け、額にかかっていた、少し汗に濡れた前髪を払ってやった。その時に触れた肌はかなり熱く、病状が酷い事を触れた手の平に伝えてくる。 (ったく、こんなガキが熱出してるってのに、誰も側にいないとか……そりゃエミリオも捻くれるよ) と、屈めた肩からサラリと落ちてきた物に目を囚われた。 それは、懐かしい青の髪。 (俺の身体も、時の流れに合わせて逆戻りしたのか?) 理屈はもはや分からない。 だがシェイド自身、世界の意思などという実態の分からない物によって生み出され、振り回され、これまで散々相手をしてきたのだ。今更何が起きようと一々驚いていられない。 そんな事を考えながらふとベッドサイドに目をやると、そこには水をはった洗面器や、タオル、水差し、コップ、薬などが置いてあった。誰かが看病はしていたようだが…。 (一番大事なモンが足りねーよ) 心細い時に、側に誰かがいる事で得られる安心感。それがなかった。 寂しさは心を、そして身体を弱くしてゆくだけなのに。 シェイドは濡らしたタオルを固く絞り、そっと少年の額にのせてやる。すると、今まで固く閉ざしていた瞼がうすく開き、焦点の合わない瞳で、側にいる人物を見つめた。 [back][next] [戻る] |