ミラ様へ「地獄のかくれんぼinストレイライズ神殿」 「これで最後……っと!」 開いていた本をパタンと閉じて、椅子の背にもたれるようにしてぐーっと伸びをする。 この世界に戻って来てから数ヶ月。ありったけの知識を詰め込んでやろうとダリルシェイドの本を読破し、さらなる高みを目指した俺は、ようやく今日、知識の塔に納められていた最後の書物を読みきった。 「思ったよりあっけなかったなー…」 ってか、これから何しよう?もうちょっと手応えあると思ってたから今日は一日中予定入れてなかったんだよなぁ…。 と、暇を持て余してた俺の耳に飛び込んで来たのは、子供たちのはしゃぎ回る声。 「もーいいかーい!」 「…もーいーよー!!」 かくれんぼか…。そういや神殿に来る子供たちは、親が礼拝してる間はいっつも表で遊んでるんだよなぁ。 「…俺も混ざるか」 今からダリルシェイドに戻ったって、坊ちゃんに絡むか坊ちゃんで遊ぶか坊ちゃんを弄り倒すかしかないからな。たまには童心に帰って思いっきり遊ぶのもいいだろ!! …どこか激しく矛盾してるのは気のせいだ。うん。 「おーい、そこの少年少女どもー!俺も混ぜてくれよ」 「「「いいよー!!」」」 というわけで、実に快く仲間に入れてもらい、 《中略》 あまりに俺が早く見つけるので、面白くなーい!と子供達から非難の嵐。 「もう…シェイドってばみつけるのはやすぎだよ!ちっともおもしろくないじゃん」 「そうだよ!もっとこどもごころをりかいしてほしいよねー」 「これだからいまどきのじゅうだいこうはんのヤツらは…」 クソこの小生意気なガキ共めッ…とは思うけど、我慢我慢…大人になれー相手は子供だー。(←自己暗示) 「じゃあさ、人数増やせばいいんじゃね?そしたらすぐには終わんねぇだろうし」 というわけで思い立ったらすぐ行動。俺は、そろそろ礼拝が終わっただろう礼拝堂へと走って行った。 「おお、シェイドさんではありませんか。どうかなさったんですか?」 「アイルツ司教!ちょうどいい所に…」 そう言い終わるか終わらないかの内に、俺はアイルツさんの喉元に、 「ヒッ…!!」 スラリと鞘から抜いた剣を当てた。 「「「し、司教ーーーッ!!?」」」 礼拝堂には神官ほぼ全員が残ってて、皆俺の突然の行動に驚いて目を丸くする。 「おい、お前ら!今から俺の言う事をよく聞け!!でないと司教がどうなるか…」 ぐっと剣に力を込める。 「ヒィ〜〜〜ッ!!」 「あ、あの…シェイド、さん!要求は一体…」 勇敢にもそう言ってきたのはフィリアだった。 「お、話が分かるなぁ。大人しく言う事聞きゃあ手は出さねぇよ。何たって俺、善良なる一般市民だし?」 「「「(嘘つけっ!!思いっきりセリフ悪役だし、すでに司教があの世に逝っちゃいそうだし! しかもアンタ、鬼神シェイドだろォ!!?どこが一般市民なんだよッ!!)」」」 なんだか皆の心が一つになって激しく俺を非難している気がする…のはきっと気のせいだ。俺をハミるなど絶対許さん。ウサギさんは寂しいと死んじゃうんだぞーッ!!(関係ナシ) 「で、だ。俺の要求は…」 緊張で、神官達がごくりと唾をのむ。 「かくれんぼだ」 「「「……………は?」」」 「ちなみに、全員強制参加だから。一人でも逃げたりしたら…」 そう言って再び司教に剣を押し当てる。 「わ、分かりましたから、とにかく司教を離していただけませんか?!」 あらら。何と腕の中の司教は、白目むいて気絶してた。どーりで静かだと思ったぜ。 「んだよ、根性ねーな…」 「「「(誰のせいだよッ!!!)」」」 とそこへ、さっきまで一緒に遊んでた少年少女共が登場。 「おい、喜べー。皆一緒にかくれんぼやってくれるってさ。快く引き受けてくれたわ」 「マジで!?シェイドスゲェ!!」 「「「(すでにかくれんぼ参加決定?!拒否権ナシ?!ってかお前思いっきり脅迫だっただろッ)」」」 再び俺の第六感が何かを感じ取っているような気がしなくもないが、まぁスルースルー♪ とりあえず司教を開放して、簡単にルールを説明する。 「隠れる場所はこの神殿の敷地内全部。森には近付くなよ。モンスターとかいるだろうから。で、鬼は俺。全員見つけたるか、一時間経った時点でゲーム終了だから」 だが、何かノリの悪い神官方。(当たり前) ここはやっぱ…多少の罰ゲームは必要だよなぁ。 「ちなみに、三十分以内に見つかった奴は、俺様直々に正義の鉄槌が下されるから…覚悟しとけよ?(ニヤリ)」 「「「Σ…!!?」」」 「なぁシェイド〜。それっておれたちもなのか?」 「ん?子供はハンデが必要だからな。お前らは免除してやる。…というわけで、五分後…ざっと三百数えたら探し始めるからな。いーち、にーぃ…」 「「「(Σえ、もうッ!!?)」」」 こうして、神官達にとって地獄の三十分が始まったのだった。 ったく…何で俺がこんな事しなきゃなんねーんだよ…。 「あの、バティスタ…早くどこかへ隠れた方が…」 「ああ?フィリア、お前マジでガキの遊びに付き合う気か?」 「ですが、一度してしまった約束を破るというのは…」 ったくこの甘ちゃんが…あれは約束じゃなくって脅迫って言うんだよ。一般的には。 「それに、もうすぐ五分になると…」 「例え相手が鬼神と噂されるシェイド=エンバースだろうと、こんなくだらん遊びに付き合う理由はねぇだろ。俺はやらないからな」 と、資料作成の続きをやろうと踵を返した、瞬間。 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ…ッ!!」 耳に届いたのは、神殿内にとどろく断末魔のごとき悲鳴だった。 「………」 「………」 「………」 「………バティ、スタ…」 「………隠れるか」 本能が、とてつもない命の危機を察知した気がする…。ひとまず俺は、悲鳴が聞こえた方とは反対に走って行った。 「うわぁぁぁぁぁぁッ!!」 「ヒェェェェェェェッ!!」 「いやぁぁぁぁぁぁッ!!」 「「………(滝汗)」」 あちこちから身の毛のよだつような悲鳴を耳にしながら(しかも聞こえて来るのは男の悲鳴ばかりのような気がする)、一心不乱に走り続けた。見つかったらその瞬間、確実に何かが終わりそうな予感がする…。 「………チッ…!!」 「えっ……きゃ……っ?!」 と、ふいに何かを感じ取って、俺は後ろを着いて来ていたフィリアごと近くにあった机の下へと潜り込んだ。 直後、俺は自身のこの時の行動が正しかったと確信する。 バタバタと必死に走っているような足音が近付いて来ていたのだ。しかもその人物は…。 「ヒィィィィッ!!」 「「(Σ司教ォッ?!)」」 そこそこお年を召されている司教が、脇目もふらず一心不乱に走っていたのだ。そして、運悪くも行き止まりの通路へと追い詰められる。 そこへ、コツリ、コツリ、と響き渡る足音。 「もう…アイルツさんったら往生際が悪ぃなぁ…。これじゃあかくれんぼじゃなくて鬼ゴッコじゃねえか」 ゆったりとした足取りで近付いて来るシェイドの姿。その顔には、元の造形と相俟って、壮絶に美しい笑みが貼り付けられてはいるが、 (余計に恐ェんだよ!その微笑みがッ!!) 一歩シェイドが近付くごとに司教がずりずりと後退る。立ち上がらない所を見ると、どうやら司教は持病のギックリ腰が再発したようだな…合掌。 「み、見逃していただけませんか…っ!!どうか…命だけは…!!」 「まだ開始十分しか経ってないだろ?それに、人聞きの悪い…別に殺したりなんかしませんよ」 そして、壁際まで追い詰められた司教に向かってその恐ろしいほどに美しい笑顔を向け…。 (すまん…司教…!!俺は自分の身の方が大事なんだ…!!) 「ぎゃぁぁぁぁぁぁ…ッ」 《しばらくお待ちください》 そしてそこに残ったのは新たな犠牲者の屍だけだった。 あまりの恐怖に思わず目を閉じてしまった俺には、あの瞬間何が起こったのかは分からない。後で(無事生還できたなら)フィリアに何があったのかを聞こうかと思ったが、 「………(怯)」 …口に出せないほど恐ろしい光景だったのかもしれない。触れない方がコイツの為なんだろう。同期のよしみだ、この好奇心には蓋をしておいてやる。 だが、ホッと息をついたのも束の間。 足音が、ゆっくりとこっちに向かってきてんじゃねぇかよッ!! 「…誰かいるのか?」 思わず叫び出しそうな様子のフィリアの口をとっさに叫び、必死に息を潜める。 「何か物音したと思ったんだけどなぁ…」 (来るなぁ…!くるんじゃねぇ…ッ!!) 俺の、滅多にする事のない祈りも届かず、足音はどんどんこちらに近付いて来る。クソォッ!時間はまだ二十分近く残ってやがる。後は俺たちに気付かずに立ち去ってくれるのを願うしか…。 「誰かいるんだろ?」 もうこれ以上ないってくらい、これまでの人生でおそらく後にも先にも一番必死になって気配を消す。 いっそ息も心臓も止まりやがれ…ッ!!(←もはや死よりもシェイドの方が恐い) 「ここか…?」 プライドも何もかも殴り捨てて泣きそう…(切実) そして、シェイドが俺達の隠れている机の下を覗き込む。 ガタンッ その直前、少し離れた所で物音が響いた。恐る恐るそちらに視線を向けると、そこには青ざめた表情の若い神官が一人。 「フッフッフッフッフ…………見つけたぞオラァァァッ!!」 「ギャァァァァァァッ!!」 高らかに笑いながら、シェイドはソイツの後をものすごい速さで追いかけていった。…助かったぜ若いの…無事に生きてたら、今度の給料日に何か奢ってやる。…生きてたらな…!! 「バティ、スタ…私達、生き延びたんですね…!!」 「…もう実家に帰りてぇ…」 半泣きで神に感謝するフィリアの横で、俺はぐったりとうなだれた。 だが、ハッと気付く。まだかくれんぼ開始から十数分。後半分近く残ってやがるじゃねぇか! 「おい、安心してる場合じゃねぇぞ!!もっとどこか絶対に見つからねぇ所にかくれねぇと…!!」 「!!…そうですわね。バティスタ、私を助けてくれてありがとうございました…。でも、お互いのためにも、ここからは別々に行動した方がいいと思うんです」 「そう、だな…生き延びろよ、フィリア…」 「バティスタも…」 そうして俺達は、このある種バトル〇ワイヤルのような緊張感を持つ神殿の中でしっかりと互いの目を見つめあって、何がなんでも生き延びようと誓い合った。 未だすぐ横にアイルツ司教の屍が転がる場所で…。 結論からいくと、直後に迷子と遭遇した俺はシェイドの罰ゲームの対象からは外れ、元々女には手を出していなかった為フィリアが餌食になることもなく、お互い無事に生還を果たした。 だから俺はあの罰ゲームがなんだったのかは知らないし、誰に聞いても口を閉ざすのみで、結局聞き出す事はできなかった。 これが、ある夏のストレイライズ神殿での出来事。 別名「苦労人バティスタとアイルツ司教の災難」(笑) 何かある意味ホラー? [back][next] [戻る] |