「オレ、レイスの分も頑張ってくるから!」
「私も……何だかじっとしてられないもの」

ショックは大きかっただろうに、普段の明るさをかけらも失わずそう告げたカイルとリアラの背を見送った時、この二人は強いなと思った。
自分達も大概修羅場をくぐってきたはずだが、あの旅の中で一番の成長を遂げたのは間違いなく彼らだ。剣としての自分も生身の自分も最後まで見届けることは叶わなかったが、とシャルティエは小さく息を吐いた。
自分は弱い。今も昔も。
そして彼女も強がっているだけで、やはり弱いままだと。

あの事故からもう丸一日経つが、シェイドは未だに目を覚ます気配がない。
ハロルド曰く、ダイクロフトから放り投げられても打撲かすり傷程度で済んだシェイドがあれしきの高さで死ぬわけないでしょ、と宣言したのだが、その彼女の態度が見事にセリフを裏切っていた。
シェイドが眠るベッドから離れようとしないのだ。

「いい加減に少しは休んだらどうだ。お前達が寝ずでシェイドを凝視していたところで目が覚めるわけでもないだろ」

開きっ放しだった扉をおざなりにコンコンと叩きながら、ジューダスが部屋へと入ってきた。
帯剣はしているものの装備類や上着なんかは脱いでいて、白いシャツにズボンとかなりラフな服装だ。武器を手放せないのはシャルティエも同じ貉であるが、どうも彼は大木を植えたあの一件以来、開き直ったというか素顔を晒すことに抵抗がなくなったらしい。

「……アンタに言われるまでもなくわかってるわよっ」
「そうか。なら今すぐ行動に移してほしいんだが」
「性格黒いんじゃない?アンタ」
「お前にだけは言われたくない」

片や普段は我が道を突き進んでいる天才は、覇気がまるでない。端的に言えばいつものペースがまるで掴めていなかった。

「もうちょっとだけ」
「つい一時間ほど前にも同じ事言ってたよ、ハロルド」
「シャルティエの分際でうっさいわよ」
「そこはシャルだからな」

あれ、僕だけなんか線引きされてません?っていうかいつどこでタッグ組むかわかんないもんなー、この二人。いや、シェイドも入れたら三人か。

「こーんな鬱々した気分じゃ、ご飯も喉を通らないもの。もうちょっとしたら頭の中整理つけちゃうから、そしたら美味しくご飯食べて、ぐっすり寝て、珍しく寝坊したシェイドを渾身のピコハンでぶん殴りに来るから」
「いやいやいや、最後のはいらないですから」

ふと脳裏にかつてラグナ遺跡で眠っていたジューダスを襲った巨大ハンマーが浮かんでしまったのは仕方あるまい。
もしかしたら明日にはシェイドがまさかの永眠というオチになっているかと思うとゾッとしないのだが、まさかハロルドの「ぶん殴る」発言にそんな危険極まりない因子が含まれているとも知らないジューダスは一つ溜め息をつき、

「誰かに食事の用意を頼んでくる。出来上がるまでには整理をつけろ、わかったな」

肯定以外は認めないというそぶりで踵を返した。
ハロルドもそれには小さく頷いて、シャルティエもいい加減肩の力を抜こうと今まで腰掛けていた椅子から立ち上がった時、寝台から僅かに衣擦れの音がした。

「……っ…」

続けて小さく呻くような声。
ハッと三人がシェイドの方を見た時彼の瞼がぱちりと開き、およそ一日ぶりにその金瞳が姿を現したのだった。



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あきゅろす。
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