そんなわけで、あっという間に辿り着いた敵船の奥。こじんまりとしていながらも船内にしては立派なその一室に、一人の男が立っていた。

「バティスタ……!」

歪んだ笑みを浮かべた眼鏡の男は、いやにゆっくりとした動作で振りかえると俺の後ろにいたフィリアを見て、馬鹿にしたような様子で笑い飛ばしたのだった。

「ハッ!フィリアか。わざわざこんなとこまで追ってくるとは、お前も馬鹿だなあ。あのまま大人しく石になってりゃ、こんな危険な目に遭うこともなかったってのによ」
「テメェ……フィリアさんを愚弄するとはいい度胸じゃねえか!覚悟はできてんだろうな、ああ!?」
「ちょーっと落ち着けやコング!!」
「ぐぬぼふぉあっ!!」

初っ端からプッツンときたらしいコングが進み出ようとするのを、ローキックの勢いで足をかけて転がしてしまう。
ドゴオンッ!!と床をぶち抜きそうな音が響き渡ったが、まあ気にしない気にしない。

『シェイド……せめて味方には穏便にな、穏便に』
「だって言って聞きそうになかったじゃん。無駄な時間と体力使いたくもないし」
「シェイド、そういう楽しそうな事は私にやらせてくれないか?」
「おお、悪いなマリー。今度からは頼むことにするわ」
「……お前らこの嵐の中何しに来たんだ?」
「ば、バティスタ……グレバムはどこにいるんです!?」

何とか場をつなごうとしたフィリアの懸命なセリフにバティスタはニヤリと笑い、

「俺に勝ったら教えてやるよ!!」

身軽な動作でひらりと舞ったかと思うと、クローナイフを付けた両手が勢いよくフィリアに向かって振りおろされようとしていた。
だが、そんな簡単に食らってやるほど俺たちだって馬鹿じゃない。フィリアのすぐ側にいたマリーが自らの装備していた斧で弾き飛ばし、転がされた体勢からコングが強烈なアッパーを放つ。タイミング悪くかわされてしまうものの、フィリアの晶術が追撃して間合いがとれる程度に距離を遠ざけ、後衛に近づかれてたまるかと俺が直接前に出てバティスタの武器を食い止めた。
キンッと金属独特の硬質なものがぶつかり合う音。力は拮抗しているが、押しきれなくもない程度。
うん、即席にしてはなかなかいい連携じゃん。

「へえ、俺たちと戦おうっての。後悔しない?しないよな?」
「ぐっ……誰がお前みたいな小娘に負けるかよ!」

直後、この小さな船内を嫌な静けさが漂った。

「……新たな犠牲者が出るな」
「言っちまったか……むしろ逝っちまったな、アイツ」
「バティスタ……何て馬鹿なことを……!」

よーし、瞬殺確定だコノヤロウ。






まあ、ここから先は語るまでもないだろう。
目を逸らしつつも自分も同じ目に遭ったためか同情を含んだ視線を向けるコングと、かつての同僚がフルボッコされるのを前によくわからんがひたすら祈りを捧げるフィリア、何だかんだで飽きてきたのか荷物から宝石を取りだしてせっせと磨き始めたマリー。

「もう終わりかオラァ!立てっつーんだよ!!」
『シェイド、どっちが悪役かわからなくなっとるぞ』

もはや屍同然となったバティスタが、白目をむいてばたりと倒れ伏したところで船上の戦いは勝負がついた。もちろん、俺たちの圧勝だ。

「むしろお前の独断場だったじゃねえか。俺様の活躍を奪いやがって」
「ならコングも一緒に戦えばよかっただろ」
「(あの激戦に入れってか……いくら無敵を誇ったコング様でも命がいくつあったって足りやしねえ)」

誰かが心の中で何かを呟いた気がするが、スルースルー。

「ま、まあこうやって悪の親玉も捕えたことだ!街に戻るとしようぜ!」
「いや、こいつが親玉ってわけではないんだけどな」
「そういえば、慌ただしかったからかコングさんにはまだお話していませんでしたね」
「フィリアさんからのお話ですか!!いつだって聞かせていただきますよ!俺はいつだって準備オッケイですからね!!」
「え、あ、あの」

どうにも世界は自分中心に回っているらしい筋肉ダルマの熱烈アタックにフィリアがたじろいでいるので、そこは間に立ってやるしかあるまい。つーか顔が近い、むしろ顔がデカイよコイツ。
フィリアが話に加わるとどうにも(元からない落ち着きが更になくなってうっとうしいことこの上なく)落ちつかないようなので、俺とマリーが代わる代わるこちらの事情を説明していく。とはいっても任務が口外無用の極秘任務であるわけだから、簡単な概要だけだ。俺たちが追っているのはバティスタではなくグレムという男で、今回こいつを捕まえたのもそのグレバムの行方を知るためだ、と。
気を失ったまま起きる気配のないバティスタを簡単に縛り上げ、それをひょいと肩に担いだコングが「ほうほう」とわかっているのかいないのかよくわからないながらに相づちを打つのを聞きながら、俺たちは甲板へと上がってきた。
海の天候は変わりやすいというが、あれほど荒れていた波もおさまり、嵐は過ぎ去ってくれたようだ。



これでまずは一段落、そう思ったのは間違いだったわけだが。


[back][next]

64/82ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!