3 それは、いつの間にか無くしてしまったと思ったペンダントだ。アメジストをあしらったミスティシンボル。 「お前、これ……いつの間に」 「知らん。持ち主と同じ図々しさでいつの間にか僕の手元にあったんだ」 「購入者に似て図太いな。あえてエミリオの所に行くなんて勇気ありすぎだろオイ」 そんな風に憎まれ口を叩きつつ俺も首に引っ掛けていたアクアマリンを外し、エミリオの顔面に向かって投げつける。 あ、全力投球したのに捕りやがった。生意気な。 「……やっぱりお前が持っていたのか」 「いつの間にかな。所有者と違って俺への好意を素直に示してくれてんじゃねーの?」 「買った奴の馬鹿が移っただけだな」 変わらないやりとり、相変わらずな態度。何気ないようで、こうして俺達が共にいられることがどれほどの奇跡の上になりたっているのか。 助けてやると言った。 だけど結局俺は何もできないまま、エミリオは自力で元の世界に戻ってきたらしい。 つくづく俺は、自分自身の役割というものを果たせていない気がする。運命なんて関係ない俺の未来を歩き出すと決めて、一体これまでに何ができただろう。 「ぬおっ」 「顔が珍しく真面目だな。気持ちの悪い」 「気持ち悪い言うな。失礼だろ」 鞘に入れたままの剣先で、こつんと額をつつかれた。 あえて刀身むき出しじゃないのは坊ちゃんの優しさか、サクッと刺さって流血沙汰になるのを避けたか、ただ単に面倒臭かっただけか。真相はあえて追求しまい。 「お前の稀に見るミクロン単位で計れるか否かの悩みなんてたかが知れてる。どうせ僕を助けると言っておきながら何もできなかったと後ろ向き思考を発揮してるんだろうが」 「さすがだな親友よ。ただもーちょっとオブラートに包んだ言い方しない?いくら俺でも傷付くぞ」 「ああ、そうか」 「すっげ軽く流したな」 後ろではまだわいわいと騒いでいるカイル達の声がする。ていうか、俺がエミリオに苛められるたびにゆっさゆっさと木が揺れて、枝が絶えず襲撃してるからあえて近寄れないだけだろう。 「少なくともお前と知り合わないままの僕だったら、こうしてまたカイル達と呑気に歩いていたりはしないだろうな」 「え?」 「スタン達が守った平和な世界を、のんびり眺めるなんてできなかっただろう」 遠回しに「俺がいなきゃ、きっと修正された正しい歴史には戻ってこれなかった」って、そう言いたいのか? 「そんなのわかんないだろ」 「いや、お前を知らない僕なら、きっと未練なんて何一つなく……あの暗闇にとけていくさ」 「……さすがに親友の事は気にしてくれたんだ?」 珍しく素直じゃん、と思いつつ聞いてみると、 「もちろんだ。僕のいない世界で誰がお前の暴走を止められる?ハッキリ言ってこの先の未来が心配で心配で、おちおち消えてもいられなかった」 そうだよな。それでこそ根性捻くれてるエミリオだ。 [back][next] [戻る] |