リアラとハロルドの放った上級晶術と三人分の剣撃、そしてロニの斧の重みを加えた衝撃は相当なものだった。
実際地面には軽くクレーターができていたのだが、すでに十八年前の災害で穴だらけなのだからと誰も気にする様子がないのはこの際置いておくことにする。
それ以上に問題だったのは、街道をのしのしと歩いていた謎の大木の方だった。
くるりと向きを変えたかと思えば状況の把握もそこそこに一瞬でバリアを張って晶術を防ぎ、片手に持った剣で合計四人分の武器を弾き、受け止めたのだ。
そう、謎の大木は手があった。

「善良な一般市民に出合い頭全開で攻撃してんじゃねーよ!余生を細々と過ごしてるだけなのに、命の残り時間を一瞬で消滅させる気かオラァ!!」
「細々暮らしている奴がそんな馬鹿でかい大木を持って歩くか!しかも切った丸太ならまだしも、根まで綺麗に掘り返すお前を一般市民とは認めな……」

条件反射のように言い返したジューダスの声が、ピタリと止む。

「……シェイド、なのか?」
「ちょ、え、エミリオ?……皆も?」

大木の正体、それは軽々と木を担いで歩いていたシェイドだったのだ。

「シェイド!」
「よかった……この世界でちゃんと会えた!」
「ったく、心配させんなよな」
「うん……でも、信じてたよ!絶対会えるって!」
「皆……」

探し求めていた相手の顔を見て、それまでの不安が一気に吹っ切れた。そんな安堵が心のゆとりをもたらしてくれたのは、まさかの再会に対する疑問と……不完全燃焼な戦意だ。
とりあえず言いたい事でも一通り言っておこうか、と思ったカイルの耳に小さな呟きが届いた。
……ジューダスが晶術を唱えているではないか。

「ま、待てって!さっきのはカウントしないとして、相手が親友だとわかった上でまだ攻撃するとか勘弁してくださいマジで!新手のイジメか?それとも愛ゆえか?」
「うるさい。残念ながら僕には生まれてこの方植物の知り合いなんてものがいなくてな。何となく自分に大なり小なりの被害をもたらしそうな存在は、直感を信じて即刻処分すると決めたんだ」
「レイス、処分対象なのね……うん、間違いないわよね」
「いやいや敢えて間違っててほしいんだけど!つーかいつ決めたんだよ、そんな主に俺に対してのみ迷惑この上ないルールは?」
「今さっき、お前の女顔を見た瞬間だ」
「あれ、喧嘩売られてる?八割引の安値でならもれなく買ってやらんこともないよ?」
「何でそこで高価買い取りしないんですか」
「シャル!お前!夕方過ぎのスーパーの魅力と恐ろしさを知らないだろ!かしょんかしょんと割引シールを貼っていく店員さんの後ろをついて歩くおばちゃん達の厚かましさを知らないんだろ!」
「え、レイス、あんまり説明になってないような……」
「あの戦場に飛び込んで割引商品を手に入れる勇気と体力と身長……僕には、ない」←注シェイド
「貴様性懲りもなく……!!」

と、ジューダスが発動準備を完了させた晶術を放とうとした瞬間、それを遥かに上回る圧倒的な力が辺り一帯を覆い尽くした。

「……いくわよシェイド!『クレイジーコメット』〜!!」

重みを増した空気、気のせいでもなく薄暗く禍々しい色になる空。
迫ってくる隕石に、それぞれが身動きもせずぽかんと口を開けてしまう。

「溢れんばかりの私の愛よ。ありがたく受けとんなさい☆」

勘弁してくれと呟いた声は、地を揺るがさんばかりの騒音に紛れた。
今日も世界は平和である。


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