「そっか、もう行っちゃうのね……」

もう一度旅立つと、そう告げた時のルーティはとても寂しそうだったが、すぐにそんな表情を笑顔の下に隠して、

「頑張って。アンタ達の大切なものが何なのか、楽しみにしてるからね」
「うん!」

白い手が、くしゃりとカイルの頭を撫でた。

「ねえ、父さんいないの?」
「スタンならさっきアイグレッテから帰ってきたところよ。倉庫の方じゃないかしら?買ってきた荷物を片付けちゃうって言ってたし」
「倉庫か……ちょっと行ってくるよ。出かけるって伝えておきたいから」
「そうね。じゃあアタシはリアラちゃんのために予備のおたまとフライパンでも用意しとこっと。死者の目覚めはしっかりマスターしといてもらわなくちゃ!」
「あ、あはは……(実はもう完璧、って言っていいのかな)」

先に歩いて行ったルーティの後を追い、カイルは離れになっている倉庫の扉を開けた。
普段、子供たちが勝手に入って怪我をしないようにと簡単な鍵をかけてあるのだが、食材から雑貨、消耗品まで大量にしまってあるためか出入りする頻度も多いので、空気はとても澄んでいる。

「スタン、いるんでしょ」
「ルーティ?あれ、俺何か忘れ物でもしてたっけ」
「アンタの息子を届けにきたのよ」
「ん?カイルか、どうしたんだ」

ひょっこり顔を覗かせたスタンは、両手に抱えていた荷物をよいしょと倉庫の奥に放り込んでいた。

「オレ、行ってくるよ」

その一言で通じたのだろう。
何の説明もなく、詳しい事情や旅立つ理由も知らないだろうけれど、スタンが何か問い詰めたりはしない。

「ああ、頑張ってこい。俺達はいつだってここで待ってるからな」
「………うんっ!」

くしゃりと頭を撫でる父親の手。
スタンの死んでしまった世界で、何度夢見たことだろう。心の奥でもう得られないのだと気付いていながら、朧な父親の面影をどれだけ追い続けただろう。
一度目は、予感があったけれどまだ何も思い出していない内の旅立ちだった。
だけど今日は、今は違う。
喪失を知った上での旅立ちは、より一層離れがたくなるものだ。

(ううん、こんなとこで後ろ向きになってる場合じゃないよ。大丈夫、きっと大丈夫だ)

カイルはぶんぶんと二三頭を振って、余計な思考を弾き飛ばした。大切な仲間を探しにいかなくては、と。
そんな息子の心中を知ってか知らずかルーティと顔を見合わせて苦笑したスタンは、何かを思い出したように「あっ」と声をあげた。

「クレスタを出たらダリルシェイドの近くを通るだろ?ちょっと街を見てこいよ」
「え?」
「ほら、昨日用事があってアイグレッテに行っただろ?その帰りに少しだけ寄ったんだけど、何かちょっと綺麗になってたような気がしてさ」
「見間違いでしょ。そう簡単にあの街が復興したら誰も苦労してないわ」

隣国の王であるウッドロウや、神団に身を置くフィリアが何とかしようと奮闘していた時期を知っているからか、ルーティは有り得ないと真っ向から否定する。

「んー、でも街の人たち、妙に生き生きしてたというか……それに、変な噂もあったんだ」
「噂?」
「ああ、確か……軍服着た銀髪美女と白い法衣のミステリアス美人がどうとかって」
「……………え、ええっ!?」

間違ない、花屋の子が言っていた二人組だ。

「オレ、行ってくるよ!もしかしたら晩ご飯までには帰ってくるかも!」
「いってらっしゃ………って、アンタせめて一週間くらいは旅しなさいよ。近所に遊びに行くんじゃあるまいし」
「……俺、何か余計な事でも言ったのかな?」

そんな声を背に、カイルは仲間達のいる宿屋へと駆け出した。
目的地はダリルシェイドに決定だ。



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あきゅろす。
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