「ま、見てろって。木が育って土が肥えてきたら、辺り一面を花とかで一杯にしてやるさ。騒乱で残った傷跡も隠しちまうくらいに、いつか緑が溢れる街になる」
「そうかい……でも、やっぱり残念だねえ」

さっきまでハキハキと元気のよかったばあさんが、どこか萎れた様子で小さく呟く声が耳に届いた。
よっこいしょ、と手近な瓦礫に腰を下ろした姿があまりに年相応で、どこまでも儚く見える。

「この木が大きく育つところを見られないと思うと、すごく残念だわ」
「ばあさん……」
「生きてる内に、私の背を追い越してくれるかしら?せめてそれくらいまでは見ておきたいものだけれどねえ」

そう言ってちょんっと苗をつついたばあさんは、笑みを浮かべていながらとても寂しそうだ。
俺は望めばこの木が立派に育つまで、否、いつか枯れ果ててしまうその日まで見届けることができるだろう。
だけどこのばあさんは……人間は、違う。
限られた短い生が、この世界に存在を与えられた瞬間から持つ命の期限があるんだ。
長くておそらく八十年。こんな風に数字で示すのは嫌いだけれども、今日一緒に頑張ってきた人達は何本の木を見届ける事ができるんだろうか。

「変な事言っちゃってすまないね」

とばあさんが立ち去るまで、俺はただずっとまだまだ小さい苗を見つめていた。
まさかこんな所で改めて自分の特異性を見せつけられる事になるとはな。この程度で傷付くような繊細さは持ち合わせてないけど、さすがにショックがないわけじゃない。

「……エルレイン、俺ちょっと出掛けてくるわ」
「いってらっしゃい」
「あれ、特に行き先とか聞いてくれないわけ?子育ては放任主義?」
「あなたみたいな子供を持つなんて、冗談じゃないわ。色んな意味で先が思いやられます」
「そのセリフ、渾身の力でそっくりそのままお前に打ち返してやりたいわ」

俺に、何ができるだろう。
何もできないかもしれない。だけど、もう何もせずに後悔するのは嫌だ。
ポケットの中の小さな膨らみ。
ばあさんが去り際にこっそりと忍び込ませていったのだろうおにぎりに小さく笑みを漏らし、街の外へと歩き出した。



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