人の一生は1
今日も、ダリルシェイドは雨が降っていた。
むしろこの辺りは十八年前の騒乱以来、局地的な気候変動で雨の降らない日の方が珍しいらしい。歴史が修正される前の世界、まだ視力が失われていた頃にアイグレッテの神官からそんな話を聞いたなあと、瓦礫を避けてようやく見えてきだした地面に小さな苗を植えつつ、少しだけ回顧してみた。
この土地は海が近い上に、度重なる雨のせいで地盤が弱い。何かの拍子に大災害を起こされてしまう前に、大きな木の十数本植えておいて張った根で緩い地盤を支えてほしいものだ。

「いっそ半日でいいから晴れてくんないかな。このまま降られてたら根っこが腐っちまいそうだ」
「頭髪のですか?」

そんなエルレインの(本人いわく)軽いジョークに、周りでさっと己の頭に手をやった男どもがいた事をここで暴露しておこう。

「目に見えないってのがクセモノだよな。気付かないうちにじわじわと浸食、むしろ撤退され続けて……」
「お、おい!余計な事言ってないで手を動かせよ!」
「そーいうオッサンも左手動かせよ。さり気なく頭をガードしてんじゃねえ」
「フフッ……手遅れですよ」
「ほっとけチクショォォオオ!」

鼻で笑ったエルレインの、本人無自覚な表情はなかなか嫌味なことこの上なかった。まだ言葉で罵倒された方がマシだよな、うん。
それにしても、と思う。
ついこの間までお互いがお互いを無視し合うような関係だったのに、今なんて並んでしゃがみ込んで土いじりだ。
やってやれないことってないよな。全ての願いと努力が報われるなんて夢物語はほざかないけど、諦めっ放しよりかは少しでも動き出した方がいいに決まってる。
いつかこんな風に、胸倉掴み上げてきたオッサンと、和やかに語り合う日がくるかもしれないじゃないか。

「和やか?……これは和やかの定義を考え直さなければいけないわ」
「エルレイン、レイスさんのオープンハートを読むんじゃねえよ」
「皆さーん、お昼ご飯にしませんかー?」

ようやくあらかたの苗を植え終わった時、慈善事業団のテントの方から女性陣の声が聞こえてきた。



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