何も感じられない、無と称するのに相応しいような場所に漂っていた気がする。
右も左も、上も下も、自分の存在があるのかさえもわからず、最後の最後に、ああ、自分は消えていくのだなと思った。
神を倒して本来の未来を取り返し、カイル達と旅をし、シェイドと再会できたのは(照れと自他共に認めるプライドの高さから決して誰に伝えたこともないが)何よりも嬉しかった。
だがそれと同じくらいに、これからの世界を見ることができないのが悔しくて、悲しくてたまらなかったのもまた事実。
無謀だとわかっていながらもう一度、奇跡が起こることを願った。今度は神なんてものに縛られず、世界を救うなんて役目もなく、殺し殺される関係もなく、ただ自由に生きてみたい。
まるで胸の内に呼応するかのようにしゃらりと鎖が鳴った音を聞いたような、そんな気がした。





ジューダスはとっさに自分の首元に手をやった。
あの暗闇に放り出されたことを話すまですっかり忘れていたペンダント。手掛かりなんて、もはやこれだけしかないのだということにようやく気が付いたのだ。
だが、細いチェーンの感覚に慣れきってしまうほど常に身に着けていたはずのそれは、指先に触れない。
さっと、ジューダスの顔から血の気が引いた。

「坊ちゃん、たぶんあのアクアマリンのペンダント……ないと思います」

見兼ねたシャルティエが小さく告げるが、そのセリフが更にジューダスにとっては絶望に叩き落とす結果になった。
これならまだ、腕や足の一本もなくなっていたほうがよほどマシだ。あのペンダントだけは、あのアクアマリンだけは、沢山のものを取り零してきたこの手に最後まで残しておきたいと願っていたのに。
あの淡く輝く青は、いつだってシェイドを思い出させてくれた。
ファンダリアからダリルシェイドへと帰る飛行竜の中で、やりたいようにすればいい、信じてくれると言ってくれた言葉に支えられてここまできたのだ。
ペンダントの喪失は、まるでシェイド自身を失ってしまったみたいで……。

「身ぐるみ剥いで確認したわけじゃないけど、そこそこ大きさのあるものでしたから……たぶん、坊ちゃんは持ってないです」
「そう、か……」
「でもね、代わりにこれがあったの」

そう言ってリアラの手からそっと渡されたのは、かつて一度だけ目にしたことのある装飾品。
小さなアメジストが二つ飾り付けられたミスティシンボルだ。



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あきゅろす。
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