ねえ、オレは大切なものっていうのを見つけ出して、取り戻して、手に入れたよ。
彼女の英雄である自分自身と、共に長い長い旅をしてきた大切な仲間たちとの絆を。
オレ一人の力じゃなくて、皆がそれぞれに頑張ってくれたりしたお陰でもあるんだけど、仮定はどうあれ結果が大事なんだって母さんも言ってたよね。
オレは、父さんとの約束通り、大切なものをちゃんと見つけた。それが二人に話しておきたかった事で、答えなんだ。





ノックもせずに勢いよくばんと扉が開いた時、旅に出ていたはずの息子が見知らぬ可憐な少女の手を引いて入ってくれば、それはもう誰だって驚くだろう。
当然、その時のスタンとルーティの表情も見物であった。

「父さん、母さん。聞いてほしいことがあるんだ」

短期間にしてはえらく雰囲気の変わったカイルが神妙な顔つきでそう告げ、スタンとルーティは何も聞かずに頷き、二人を部屋の中へと促したのだった。
人数分用意されたお茶がことんと目の前に置かれ、それを合図に語られたカイル達の旅の内容とやらは、奇想天外も甚だしいもの。
神や聖女や奇跡の力、果ては時間転移で過去や未来に行き、世界の滅亡を食い止めただとか。

「ちょ、ちょっと待って!頭の中整理するから」

ルーティは頭を抱えてうんうん唸り、スタンは容量オーバーだったのかぽかんとしている。

「信じられないかもしれないけど……本当にあったことなんです!私のためにカイルはいつも一生懸命で、最後の最後まで守ってくれて」
「待って待って、信じないとは言ってないわ。アンタ達の話は確かにつじつまが合ってるもの」
「それに、俺達が話してないことまで知ってるみたいだしな……」

物憂げに目を伏せたスタンが指しているのはおそらく、海底洞窟でシェイドが自殺まがいの戦いをしたこと、そしてダイクロフトでの最後の戦いで屍となったリオンと戦ったことだろう。
知られたくないから黙っていたのだろう十八年前の戦いの全貌を、事情があったとはいえ勝手に見てきてしまったのは少し申し訳ない。
咎められた子供のように俯くカイルを見て、スタンは場を和ませようと殊更大きな声を上げて笑った。

「あははっ!でもその世界じゃ、俺死んじゃってたんだよな?」
「こんのスカタンっ、笑い事じゃないわよ!話題変えるならもうちょっと頭使ってから喋りなさいよね!」
「……ゴメンナサイ」
「まったくもう、十八年経っても相変わらず馬鹿なんだから……」

在り来たりな日常。
他愛ない会話に、何でもないような戯れ。
旅の記憶を取り戻すまでは、どれだけ貴いものかなんて知らなかった。当たり前のように甘受していた。
側にあるものがどれだけ大事かなんて、一度無くさなければわからないのだ。

「父さんが生きて、ここにいてくれて、ホントによかったと思うよ。旅してた頃なんてロニ、すごく気にしてたみたいで」
「私達には気付かれないようにしてたみたいだけど、ジューダスとレイスもすごく悲しんでいたわよね」
「あら、見ず知らずの人にそこまで悼んでもらえるなんて、四英雄スタン・エルロンも有名になったわね」
「茶化すなよルーティ」

仲間の二人を見ず知らずのと称された事で、リアラは失言だったと気付き口を噤んだ。
スタンとルーティは、話に出てきたジューダスとレイスがかつての大切な仲間だったことを知らない。そして二人が旅の間どれだけ苦悩し、仲間のために奮闘していたかを。
それはとても切ないことではないだろうか。
だがそんなリアラの思いを察したかのように、小さな呟きが降ってきた。

「大丈夫だよ」
「カイル……」
「きっと、皆が笑って話せるようになるから。大丈夫」
「……うん」

いつかきっと。
そのために今、自分達が頑張るのだ。
リアラは胸中で繰り返しそう呟いた。



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