I miss you.1
「ようやく落ち着ける所に着いたし、それぞれ何があったか近況報告……するまでもないわな」
「旅をしてた頃を思い出したからね。大体の事は」
幸いというべきか、お金だけは困らない程度に持っていた。
短期間だったがカイルとロニの二人で世界をまわった間にモンスターを倒したり、手に入れた物を売ったりしていたので、神と戦う直前(いつの間にやら闘技場でフィッツガルド経済が危うくなるほど荒稼ぎしたりしたり、未開の地でこれまた見知らぬ高レベルなひょろ長いモンスターを倒して根こそぎガルドを奪ったりしていた頃)に比べれば些細なものだったが、他に比べて安値な宿の二部屋を借り切るには全く問題ない額を所持していたのは幸運としか言い様がない。
その一室にいまだ目覚めないジューダスを寝かせ、冒頭のロニのセリフとシャルティエの苦笑から会話が始まったのだった。
「悠長に話してる暇があるならシェイドを探しに行きたいわよ!……って言いたいんだけどねえ」
ハロルドが大きく溜め息をつく。
「手掛かりがぐーすか眠ってるんじゃ、動きようがないわ」
今のところ、シェイドのペンダントをジューダスが持っていたという、それだけが手掛かりであり唯一の希望でもあった。
早く探し出して、シェイドがこの世界に戻ってきているのだという確かな証がほしい。それはここにいる誰もが思っている事だ。
「これからどうするの、カイル?」
「ジューダスが起きるまでただじっと待ってるわけにはいかねえぞ」
「うん……オレ、先に孤児院に帰って話そうと思うんだ。旅の事、リアラの事、大切な仲間ができた事」
旅の記憶を取り戻したからか再びリアラの英雄となったからか、カイルは強いまなざしで自分の意思を告げた。
「ジューダスとレイスの事を話さずに済むとは思わないけど、ジューダスがリオンで、レイスがシェイドさんだっていうのは黙ってるつもりだよ。二人ともまだ納得してないのに正体バラしちゃうとか、よくないと思うし……ジューダスの意思を無視して勝手に父さんたちと会わせるのはダメ、だよね?」
「確かに、バレたら俺たち瞬殺かもな。最終的にジューダスってレイス並みに遠慮なかったし……いっそ今のうちに武器取り上げとくか?」
「時間稼ぎ、って言い方は変だけど、少し様子を見た方がいいのかもしれない。僕達にもゆっくり考える時間が欲しいからさ」
「シャルさんは……レイスやジューダスとはまた違う意味で顔を合わせにくいでしょうしね」
いくらハロルドの頭脳とシェイドに対する執着といささか傍迷惑なほどに卓越しすぎた発明センスのお陰とはいえ、有り得ない邂逅を果たしていいものだろうか。
シャルティエは曖昧な苦笑をリアラに返した。
「ロニはその間にナナリーを迎えに行ってあげないとね!」
「お、おいカイル!」
別れ際の事でも思い出したのか、ロニの顔がさっと赤くなる。
「今はそんな場合じゃねえだろ!ナナリーなんてこの時代じゃまだ胸もないガキだし、薬でよくなったとはいえ弟抱えてるし……俺達の事も思い出してなかったし」
「あら、変態エロニの分際で忘れられたままな事にビビってるわけ」
「変態もエロニも関係ねえだろちくしょぉぉ!」
ロニがハロルドに弄られてる間に、カイルはリアラとシャルティエに歴史の修復直前の出来事を事細かに説明していた。ハロルドも当然その地獄耳でちゃっかり聞いていたりするのだが、少々どころかパニックしている当人が気付くはずもない。
「きっと、ナナリーは思い出してくれるわ。それがいつ、何年後、何十年後になるかはわからないけれど」
「リアラ……」
「だってカイルも、ソーディアンだったシャルさんも、皆も、取り戻したじゃない。私達の絆を!」
ね、とリアラが満面の笑みを浮かべる。
変に虚勢を張って、格好つけようとした自分が情けないなと思いつつ、ロニは抱く思いに正直に向き合おうと決心した。
今度こそ、言い逃げなんてさせないからと。
「そこで何十年でも待ってやるさ的なセリフの一つや二つ言っとけば、カッコいいって見直してあげれるんだけどねえ」
さすが、ヘタレと言われるだけはあるわと、ハロルドがトドメの一言を放った。
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