「ごめ、っうおおおおっ!!」

ごめんな、と。
そう続けようとした瞬間、頭上から何かが降ってきた。
いや、そんな可愛いもんじゃない。あれは落下してきたって表現が正しい。

「何してんだテメッ!人為的な落石は犯罪だぞ!!」
「いえ、事故です」
「目の前でデカい瓦礫投げたくせに事故だと言い張る?」
「長く生きていればそんな日もよくありますよ」
「あってたまるかっ!!天気が晴れ時々落石なんて傘も役に立たねえだろうがあああ!!」

エルレイン……アホの子ならぬボケの申し子だったとは……さすがの俺もそこまでは見抜けなかったぜ。
と、いきなり頭の上に何か平べったくずっしりしたものが乗せられた。感触から察するに瓦礫ではなさそうだがこれは……本?

「謝るのは、自分が間違っていたとか悪かったとか認める行為だわ」

腰に手をあて、仁王立ちで目の前に踏ん反り返っているエルレインは、俺の鼻先にびしっと指を突き付けてそうのたまわってくれた。

「そう本に書いてありました」
「カッコいい事言いつつも出所は例のうさん臭い本かよ。しかも読破済みか」

タイトルに丸っこい文字で「お友達の作り方」と書かれた無駄に分厚い本が、どうやら俺の頭頂部を襲撃した犯人のようだ。付箋が大量についていて、いかに読み込まれたかがよくわかる。わかりたくもなかったが。
所在無さげにそれをぱらぱらとめくってみれば、よく読んだなと感心するような何とも……まあ、察してくれ。

「シェイド・エンバース。あなたは、自分の感情が間違いだったと思うんですか?」
「……エルレイン?」
「これまでに自分が成してきた事も、その時々の判断や行動も、今こうやって泥だらけになっていることも、全部間違っていたと言っているようなもの。後悔をするなとは言いません。だけど失ったものや過ぎ去ったものに思いを馳せてもいいではないですか。少なくとも、私はそれを……」
「………」
「素晴らしいものだと、感じました」

何か見解の相違でも発生してるんじゃないかと思うくらいに、一つの事柄に対して俺達の受け取り方は大きく異なっていた。
エルレインは、失った過去を取り戻すかのように同じ視点に立とうとした俺の気持ちを、素晴らしいものだと称した。
だけど、俺から言わせればそれはただの弱さだ。
過ぎ去った過去にすがりついて、得られなかったものを掴み取ろうと奮闘しているだけ。実に滑稽な姿だ。

「それを謝って、間違いだと認めるのなら……私に対する侮辱ですよ」
「……そう、かな」
「そうです」
「そっか……」

なあ、エミリオ。
人って本当にどこまでも複雑で、難しいよな。
前にお前はヒューゴの計画を降りる決心をしたって言ってたけど、俺にはいつそんな転機があったのかさえ気付けなかった。
気付いていたら、こんな後悔はしなかったのかな?
俺ももっと人間らしくいられたのかな?
なあ、エミリオ。
もっと聞いてみたいことがたくさんあったんだ。話したいことがたくさんあったんだ。
疑問にさえ思わなかったり、知られるのが恐くて何も伝えられなかった。こうやって話してると、エルレインの方がよっぽど人間らしいと思うことばっかりだ。
絶対にまた会いに行くからその時は、幼児並の何で何で攻撃にさらしてやるから覚悟してろよ。

「もしまた同じように謝ったりしたら、局地的な落石という悪天候に見舞われるかもしれませんよ」
「……気をつけます」
「常に傘の携帯を忘れないで下さい」

なあ、エミリオ。
俺には終始ツッコミなんてそんなハードルの高い役割は身に余っちまうわ。エルレインさんちょっと強すぎる。
切実にカムバック、コミュニケーションはともかくツッコミにかけてはナイスだったお坊ちゃん……。



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あきゅろす。
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