徒人1
運んでも運んでも、一向に減る気配のない瓦礫の山々。
朝から晩まで泥まみれ、汗まみれになって動いているのだが、目に見えて変化があるわけではない。街は相変わらずの惨状だし、人々が俺達をを見る視線はどこまでも冷めている。

(そんな事をしても無駄だっていうのに)

そんな心の声までもが聞こえてきそうだ。

「あーあ、せっかくの白い衣装が泥だらけじゃんか」

昼下がりの休憩ということで、青い空を見上げながら瓦礫の縁に腰を下ろす。その時視界に入ったエルレインの姿を見て、そんなセリフを吐かずにはいられなかった。

「まるで砂場で土遊びをした後の子供みたいだ」

と、ハハッと笑えば、小さく首を傾げる。自分が何について笑われているのかわかっていない、そんな幼子のような態度がますます俺の笑いを誘うのだと自覚してくれないだろうか。
この世界に再び舞い降りてもう三日になるだろうか。いや、正しくはまだ三日、だ。
あの何とも言えない再会を果たしてからというもの、白い聖女は相変わらず一緒に瓦礫の撤去作業を続けている。
黙々と作業を続ける俺の横で、これまた黙々と白く細い指を土埃に汚す姿は、何というかとても……シュールだ。不思議ちゃんが更に不思議になった、否、元から不思議だから当たり前か。
とにかく違和感だらけだったのだ。
失ってはいないだろうレンズの力や、聖女の力は一切使わないエルレインが。

「そうですね。真っ黒になってしまいました」
「洗い替えとかあるわけ?ここって雨の多い土地だから、乾かすのに時間かかるぞ」
「実を言うとこの服、ヒラヒラしすぎていて動き辛いんです」
「いやいや、アンタその服で思いっきり俺達と戦ってたじゃんか。何を今更」
「いっそ新しい服を新調しようかと」
「RPG登場人物的に気軽に衣装チェンジっていいんですか?最近はやりの課金要素かな?」
「ゴシックロリータ……」
「しかもあえてそこかよ!自分の外見年齢と風貌考えろよ!!」

激しく疲れる。もはやおウチ帰りてえ……って、故郷がないんだった。
ここまでの会話も、この三日で覚えたジョークだ。
証拠に、隣りで俺と同じように腰を下ろしているエルレインは、ころころと鈴の鳴るような声で笑っている。
敵対していた頃には決して見せなかっただろう表情があまりに人間くさくて。
だからかは定かでないが、ふいに聞きたくなった。

「なあ」
「何でしょう?」
「……どうして力を使わないんだ?」



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あきゅろす。
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