私が誰かにできること1
俺が今現在、ここにいる理由その一。

「ぶっちゃけあの森から一番近いし。何しろ武器ナシじゃ、いくら腕に覚えがあっても心許無いだろ」

誰に向かって言ってんだ、独り言とかイタいヤツだなあとか思ったそこのキミ。今すぐ俺がひ〇こクラブの写し(シェイドさん直筆)送ってやるから、子育ての有り方を通じて自分の過去を振り返りつつ、人生勉強しなおしてこい。
そういうワケで、小雨の降るダリルシェイドへとやってきてみた俺だったり。
辿り着いて、真っ先に武器屋とか雑貨屋とかで必要最低限なモンを仕入れて、ぶらぶらと瓦礫に埋もれた街を歩いてみた。

「変わっちまった、な」

実際のところ、この時代のダリルシェイドを見るのは初めてだった。
前の時はここには立ち寄らなかったし、第一来たところで何も見えないんだし、治ってからも何だかんだで慌ただしくてここには来れなかったから。
そして今日初めて目にするダリルシェイドでは、あの頃の活気が嘘のように何もかもを諦めたような目をした人々が、瓦礫に埋もれた栄華を馬鹿みたいに振り返りつつ、細々と生活をしている光景だった。

「これが、何も変えられなかった俺が招いた未来、か……」

ちょっとこれは語弊があるかな。正確には、何もしなかったんだから。
そして俺は、どこよりもまずこの街の現状を見ておくべきだったんだ。
復興したりとか、少しだけ裕福になったりとかしたそんな場所じゃなく、十八年という年月を経てもなお、停滞したままなこの街を……。





「……いないな」

何とか原型を保っているかつてのヒューゴ邸へと来てみたが、探しているアイツの姿はなかった。
戻って来るのなら、きっとここだと思ってたんだが。

「俺みたいに、何かしら思い入れのある場所に飛ばされてるはずだよな。一番はやっぱマリアンとの思い出がウザいくらいにスシ詰め状態なんだからココだろ?他は……俺と会ったあの森かもしんないけどいなかったし……ってか、マジでいたらお前、どんだけ俺に思い入れあんだよ友達いない故の執着か暑苦しいだろうがテメェシバくぞって別に俺は照れ隠しとかじゃないけどなド突くし確実に。(←ぷちパニック中)……後は、やっぱ海底洞窟か?でも今はもう原型止めてねーし、あんなトコに戻されたら冗談ヌキでまた死ぬだろ。むしろそんな笑えないブラックジョークは、切実に勘弁してほしいし」

これが俺がここへ来た理由その二だったり。
エミリオを探すぞってなって、真っ先にダリルシェイドが浮かんだよな。
と、俺が一人悶々としながら歩いてると、不意に視界に入ってきた白い色。

「………」

小雨に打たれながらただ物憂げに、かつては巨大で壮大な美しい城が立っていた場所を見つめる女性が一人。かなり長い間そこにいたのか、結った長い茶髪は、濡れてしっとりと重くなっていた。
とりあえず、それを見た俺は、

「………」
「……普通、声をかけたりしません?」

何も見なかった事にして踵を返そうとした所で、その女性に呼び止められた。

「………」
「無視ですか。泣きますよ」
「……エルレインさーん、アンタいつからそんなキャラになったんだ?」

何かもう逃げるに逃げられないのを感じ取って、仕方なく振り返る。

「あんだけ戦いまくった直後なんだし、顔合わせ辛いなーとかっていう俺の繊細で傷付きやすい心情をちょっとは悟れよ」
「あなたが言ったんですよ。もう一度巡り合える未来をと……」
「いやそうだけど……俺がとどめ刺したんだぞ。自分を殺したヤツとなんて、会話するの気まずいだろ」
「私は気にしていません。喧嘩両成敗ですから」

……お前実はボケ担当か?しかも天然か?
一触即発の真剣勝負な殺しあいをガキの喧嘩みたいに流すのか?



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