今再び、巡り逢い1
「リア、ラ……本当に、君なのか?」

必ず再び巡り会おうと約束したのに、この腕に抱き締めているのに、でもどこか信じられない思いでいっぱいだった。
それは、かつて仲間と共に過ごしたあの日々の記憶が一気に蘇りつつあるからなのかもしれない。
今のこの世界では経験していない、未来ともいえる過去が濁流のようにおしよせてきて、その情報量の多さにカイルはガクリと膝をついた。

「カイル!?」
「っ、大丈夫。だいじょうぶ、だから……」

もしここに彼がいたら、「元から容量小さいトコに一気に詰め込んでんだから、パンクでもするんじゃないか?」とか言いながらも心配してくれるんだろうなと、そう思って、無意識に笑みがこぼれた。
思い出せるという事はもう自分が、目の前にいる大切な少女の英雄である自分自身を取り戻したという事。

「うん、大丈夫……おかえり、リアラ」
「ただいま、カイル。ありがとう、思い出してくれて……」

二人で穏やかに言葉を交わし合っていると、階下でカサリと物音が響いた。
獰猛でもないがモンスターも多くいるこのラグナ遺跡となると、たとえ戦いの日々を思い出した自分といえど油断はできない。
カイルはリアラを背に庇うようにして、自ら持つ剣の柄に手をかけた。

「ロニ!?」
「いや、上の方で変な光が見えたから何かあったのかと思ってよ……ってカイル、お前の後ろにいるの、誰だ?」

知っている仲間の顔に、ホッと肩の力を抜くカイルとリアラ。
だがロニにとってリアラは見知らぬ少女であり、表情は二人と逆に不信感を募らせていく。
見た目は可憐な少女とはいえ、こんなめったに人も立ち寄らないような場所にいるのでは警戒しても仕方ないだろう。

「ロニ……私の事、覚えてない?」
「俺は自慢じゃねえが、一度会った女性の名前は絶対に忘れないタイプだぞ?でも、記憶にないな……」
「そんな事ばっかり言ってるから、レイスにローキックされた上にナナリーから関節技キメられるんだよ……」

そんな光景がありありと浮かんできて、カイルは思わず苦笑する。
だがそのセリフを聞いた瞬間、ロニはハッと頭を抱えた。

「ロニ?」
「レイスに、ナナリー?……ナナリーって、あのホープタウンにいた病気の弟持ってるガキだろ?」
「うん、そうだよ!」
「何でアイツが……って、あーーーッ!!」

ドゴォォォン!!

「「!!?」」

ロニの叫びと共に突然辺りに眩いばかりの光が溢れ……たと思ったら、大きな音を立てて巨大な……『何か』としか表現できないような物体が、もくもくと煙を上げながら目の前に鎮座していた。

「………(死)」

ロニの上に。

「「ロニーッ!?」」

高さ2、3mはあるだろう円筒形の……独特の光沢からしておそらくは金属の類いだろうが、そこには隙間なくファンシーな気もしなくもないイラストが描かれており、しかもその上にはとてもじゃないが可愛いとは形容し堅い、おそらくはウサギと思われなくもない動物……むしろ生物?の顔が乗っていたりする。
極め付けは全体にペイントされている色だ。いささか目に鮮やかすぎるそのショッキングピンクは、カイルとリアラがある種の眩しさに思わず目を逸らすほどだった。
と、これが視角から得られた情報の一部でもあるが、その多くがあくまでも推測の域を出ないのは、コレを作り出した人物が推測どころか憶測でも語れないであろう常軌を逸した存在だという事を自分達が知っているからであろう。
二人があまりの驚愕に唖然としていると(むしろ本能があんまりその物体に近付くべきじゃないと叫んでいた気もするが)、唐突にプシューという音と煙を上げながらウサギの胴体部分がパックリと口を開けた。
二人の気分はもう未知との遭遇?むしろター〇ネーターのテーマが流れていてもおかしくはない雰囲気だとも言えただろう。
そして、もくもくと上がる煙の中から現れたのは。

「やっほ〜シェイド☆泣く子も黙る全世界の普遍的超天才アイドル、ハロルド・ベルセリオス様の登ッ場ー!!私がアンタの前に現れるのをアカすりタオルが擦り切れる勢いで磨き上げときなさいって言った通り、首洗って待って……って、あら。アンタ達二人だけ?」

そんなに磨いたら、おそらく磨かれた首はあまりの摩擦に重度の火傷を負うんじゃないかという、ちょっとばかりグロい質問と、別れ際にそんなやりとりは決してなかった!というカイルの主張は胸の奥の底にしっかり閉じ込め、二人はブンブンと首を縦に振った。
あの旅を通して学んだのは、仲間との信頼や絆、そして、『障っても障らなくても神の祟りはあるだろうけど、障らない方がいくらかマシ』と使い勝手のいいように改造された教訓だったりする。
ちなみに、潰されたロニの存在はもはや忘れられかけていた。

「おっかしいわね〜。ちゃんとシェイドのレンズの気配を追ってきたはずだったのに」
「あ、もしかしたら私のペンダントと……」

ぴょん、と謎の物体から出てきたハロルドに、手に持っているレンズを見せながら話しかけるリアラだったが、軽やかな足取りで地面に降り立った彼女の手に何かが引きずられているのに気付き、思わず閉口してしまった。

「シ、シャルティエさんっ!?」
「あ、カイル!久しぶりだね!」

そこにはかつて時を越えた先で出会った、ソーディアンのオリジナルである青年が立っていたのだった。

「どうして、ここに?」
「シャルティエも思い出したくれちゃったみたいなのよ。だから、ついでに連れてきてあげたってワケ♪」
「「(むしろ本人の意思は無視で無理矢理引っ張って来たんじゃ……?)」」
「(いやまあ……実際はそうなんだけど。いつの間にか僕の部屋の入り口にあのケバケバしいタイムマシン(ハロルド説)が置いてあってさ、気付いた時にはハッチ閉められて出発してたんだよ。もしあれがイクティノスだったらどうするんだろうとは思うんだけど……やっぱりハロルドだしね?……まあ、僕もシェイドや皆に会えたら嬉しいし)」
「およ、何か言った?」
「「「な、何でも!!」」」

三人の心が一つになった瞬間だった。

「それにしても……シャルさんも思い出してくれたのね!」
「まあ、ね。……でも、思い出して一番最初に何されたかって、いきなりど突かれたんだよ、ハロルドに」
「当たり前よ。先にカーレル達と待ってますよーなんて、冗談でも笑えないわ!」

おそらくは、あの神の眼の前での事を言っているのだろう。少し拗ねた風なハロルドが、シャルティエをジロリと睨む。

「ま、今は私の機嫌がいいから許してあげるわ。タイムマシンは成功したし、カイル達とも再開できたし、『トラベラー☆ラブリーウサ子三号機改良版その2ピンクバージョン』はクッションのお陰で傷一つないし!」
「「ロ、ロニーっ!?」」
「え、ええーッ!轢いてるっ!?」



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