刹那の夢〜出会った場所〜1
暗いのか、明るいのか。
何もないのか、何かあるのか。
果たして今、自分が立っているのか、座っているのか、もしくは横たわっているのか、全くわからない空間。
そんな場所にただぽつんと俺は、いた。
「あー………」
どうしようもなくて、どうすればいいのかもわからなかったものだから無意味に声を出してみるものの、それが音となって伝わっているのかも判別できない。
そして、自分がここにいるのかさえも。
(絶対助けるって言っといてさ、自分がこの状態じゃ情けなくないか?)
歴史にその存在が修復されそうになった時、最後に交わした約束。
未練もなく自らの行き着く運命を受け入れようとしていた彼を、ほんの少しでもつなぎ止めるために口にした約束。
(絶対、助けるからな)
そして、それは同じく歴史の異物として排除されそうだった自分自身をつなぎ止めるための約束でもあった。
「でもこれじゃ、効果あったのかわかんないし」
この空間が、果たしてシェイドを“居る”と定義してもよい場所なのか。
漂っていると言ってよいのかさえ分からないこの状況が、希望を見出だせるものなのか。
その時、指先に何かが触れたような気がした。
とは言っても、自分の肉体さえ存在しているのか分からない状態。それでも確かに、自分以外の何かがここにあるようだった。
少しずつ、触れたものの感触を辿っていく。
表面がツルリとした小さな固いものに、長いチェーンが付いている。
どこかで、シェイドはこれと同じものを触れた気がした。
「まさか……」
思い付いたものに有り得ないと思いながらも、もう一度それに触れてみる。
「アイツに渡したペンダント?」
触れただけで宝石の種類が分かるわけではないが、直感的にそう思った。
そして思わず漏れた、苦笑。
「もしかして、お前もここにいたりすんのかな」
シェイドは、まだ希望は消えてはいないと、訳もなくそう思った。
「なあ、聞こえてるんだろ?」
誰に、というわけでもなく、だが確信をもってそう呟く。
「確かに俺は、期待には応えられなかった。勘違いして、怖がってばっかりで、何も変えられなかった」
紡ぐ言葉が、伝えたい相手に届いているのかは分からない。
「……そう、思ってたんだ」
これが、シェイド自身の最後の悪足掻き。
「でもな、変わったものもあった。ただ俺が気付けなかっただけで……アイツは俺が一緒にいた事で、確かに変わってたんだ」
果たしてこんなにも次元の違う相手が、その存在を定義付ける名前さえ持たない相手が、自分の言う事を理解してくれるのかは分からないけれど。
「だから、まだ間に合うよな?何も終わっちゃいないだろ?」
触れる確かな思い出を、そっと、でも力強く握り締める。
「誰かと共に生きる事を、願ってもいいだろう?」
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