ああ、本当だな。
一つ決心したら一つ忘れて、それをまた拾い上げたらまた一つ見失って。
俺は、自分が思っていた以上に色々と限界だったのかもしれない。全部を一人で背負いすぎてたのかな。
出会ってきた皆に似たようなことを言われ続けてきたじゃないか、そう、記憶になくったってこの目の前のリオンも。

「……お前、なんか変わったな」
「僕は何も変わってなんかいない」
「いいや、最初の頃とはかなり違うって。やっぱあのスカタンの影響か?田舎者のお人よしが空気感染したか?」
「だから、変わっていないと……!」
「じゃあ類友ってやつだな。表向きはどうあれ根っこの部分ではスタンとリオンって似てるのかもしれな、」
「変わったことにしておいてくれ(きっぱり)」

今まで積み重ねてきたはずの全てが消えて、思い出も帰る場所も失って、唯一俺の正体を知っていて愚痴を聞いていてくれた家族も、喧嘩しながらも支え合ってきた親友もいなくて。
独りだと、思いこんでいた。

「船上にどれだけ敵がいるかはわからん。だけど、ああいう狭い通路だと多人数じゃ身動きとれずに下手すりゃ自滅だ。できる限り最小限でいくのがベスト」
「グレバムがいるという可能性を忘れるな。人数を削っても戦力不足で負けていては意味がない」
「忘れてねーよ、俺を誰だと思ってんの?」
「冷静そうに見えて案外直情傾向なただの馬鹿だ」
「あれ、さり気に酷くないか」
「敵船に乗り込むパーティは前衛二人に後方支援が二人。うち一人は回復昌術を使えるお前かルーティが必ず入れ」
「了解っすたいちょー。んじゃ、とりあえずまずは、スカタンと愉快な仲間たちの回収からだな」
「誰が隊長だ、お前みたいな扱いにくい部下を持つなんて願い下げだからな。たとえ世界を敵に回してもお断りだ」
「何でだよ、俺みたいな強くて賢くて優秀な逸材、滅多にいるもんじゃないぞ」
「自惚れるなうっとうしい」
「否定しないあたりがデレよな」
「……ねえ、あの二人ってさっきまで喧嘩してなかったけ?」
『男の子なんてあんなものよ、あっさりしてるんだからいいじゃない』
『すみませんねえ、僕ってネチネチしてて……』

お互いがお互いの意見を受け入れてしまえば、後はもうそれまでの口論がなんだったんだってくらいにすんなりと話は纏まっていく。いつの間にかまたシャルがシャルるという器用な事をしていたが、もはやツッコんでる時間が惜しいので無視することにした。(酷)

「そうだ。リオンは居残り組な」
「……何を馬鹿な事を言うんだこの馬鹿は」
「あ、さりげなく馬鹿って二回言ってない?」
「反応するところはそこか……グレバム確保に僕が行かなくてどうする」
「それを自意識過剰というんだよお坊ちゃん。代わりに俺が船に乗り込むから問題ねーよ」
「だが、」
「船酔いでフラフラしてる奴に来られても邪魔なだけだ。揺れる船上、香る潮臭さ、そんな場所で敵側のムサイ船員とか出てきてみろ。リバース確実で「しばらくお待ちください」って広大な草原とか綺麗な花とかの画像を公開しなきゃなんねーだろうが」
「ああ、あのピンポンパンポーンって鳴るやつね……」
『坊ちゃん、言われちゃいましたね……』

ちなみに今更ながら説明すると、これだけの会話をしながらも俺達だって街を襲っているモンスターを倒し続けてるわけで。そうなると当然ながらリオンの手には武器であるシャルティエが握られているわけであって。

「今すぐ僕の目の前から消え失せろ!!」

怒った坊ちゃんに攻撃されるのもまた必然。
とにかくルーティにはスタン達がいるだろう闘技場に向かってもらって、俺とリオンは港の方へと走る。いや、厳密にはリオンが武器構えたまま俺を追っかけてるってのが正しいんだが。しかもモンスターを攻撃するときの余波がこっちに流れてきてるような気がするのは気のせい……じゃないな。頑張れ俺っ!

「……今度は、お前が陸地に残る番なんだよ」
「何か言ったか?」
「別に」

港について、セインガルド国王からの勅命だって言えば必ず誰かが船を出してくれるだろう。まあ、誰も協力してくれないようなら痛む良心を押さえつけての嬉々とした実力行使はやむないわけだが。(激しく矛盾)





一人じゃないんだ。
色んなものをなくしたって、またいつの間にか手に入れてるものだってあるじゃないか。
別れがあってもまた次の出会いがある、今までもこれからもそうやって生きていくんだから。
俺は、決して独りじゃないんだ。



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あきゅろす。
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