独りじゃないから1
聞いてない、こんなの。
知らない、こんな事態。
俺が未来を変えようとあがいたからこうなったのか?俺がここにいるせいで、この街は、この人たちは……。

「……クソッ!どれだけいるんだよ!!」
「シェイド、焦りすぎ!一人で突っ走ってたら危ないわよ!!」

たくさんの悲鳴と、モンスターの雄叫びとが、冷静にならなきゃとわかっていても焦りをもたらしてくる。
俺がモンスターの襲撃に気付いたのは、リオンたちとの会話から逃げるようにしてイレーヌの屋敷を後にし、アイスキャンデー屋の前に来たとほぼ同時だった。陸地ではあまり見ないようなモンスターが至るところから、それも群れをなして襲ってきたのだ。
ノイシュタットは半分近くを海に囲まれた街だ。その水辺の全てからここと似たようにモンスターが迫っているとしたら?

「っ、何で……!?」

こんなの聞いてない。こんな事態は知らない。
俺が未来を変えようとあがいたからこうなったのか?俺がここにいるせいで、この街は、この人たちは……、

「……んなの絶対、させるかよ」
『シェイド!?』

死んでいくっていうのか?

「落ち着けといっているだろうが!お前一人が暴れたところでそう簡単に片付く数じゃない、スタンたちと合流するぞ!」
「俺は落ち着いてる、今すぐ腹踊りできるくらいには冷静だ」
「どこがどう冷静だとほざくんだ貴様は!!十分に錯乱しているじゃないか!!」

ああ、そうだよ。全く冷静じゃないさ。
自分一人の何でもないような行動が、未来に大きく影響を与える。かつての俺が恐怖した事態が、今目の前でリアルに起こっているかもしれないんだ。怖くて怖くて、そう簡単に冷静になれるはずもないだろ。
だってほら、剣の柄を握る手が情けないくらいに震えてる。

「……リオン、こっからは別行動だ」
「何だと?」
「モンスターは海の方から上がってきてる。おそらくこの事態を引き起こしてる誰かがいるはずなんだ。普通、野生のモンスターはこんなデカイ群れを作ったりはしないからな」

だけど、こうなるとわかっていただろう?
覚悟したじゃないか、何物にも縛られない未来で、今度こそ皆を幸せにするんだって。
ここで踏ん張らなきゃいけないんだ。

「海上にいる元凶を叩かなきゃこの襲撃は終わらない。なら、港で船を借りるなりしてできるだけ早く向かうべきだ」
『確かに一理ありますね。でも、別行動って』
「海に向かうパーティーとは別で、俺はこの街に残る。このまま放っておけるか」

リオンとルーティのひどく驚いたような瞳が、じっとこっちを見ているのがわかる。
実際、俺達とはいっても一緒に行動している仲間の人数はたったの六人しかいないんだから、乏しい戦力をさらに割くなんて無謀だってわかってるさ。でも。

『シェイド、さすがにそれは無茶よ。あなたもわかっていて言ってるんでしょう?』
「またカルバレイスのように勝手な行動を取る気か」
「少なくとも一緒にいて俺がお前らの足を引っ張った覚えはないし、これからもそうするつもりはない。せいぜい趣味で誰かを弄り倒す程度だ。主にスタンとかシャルとかスタンとかスタンとかシャルとかを……」
『僕、これからも弄られる運命なんですね…(遠い目)』
「はぐらかすな!僕は、こんな非常時に独断で動かれたら迷惑だといってるんだ!」
「俺がお前の命令に従う必要ないだろうが!受けた任務は別なんだ、リオンにあれこれ指図される覚えはねーよ!!」
「追う相手は同じだと自分で断言していただろう!」
「ちょっと二人とも!こんな時に喧嘩なんか……」
「もう誰も死なせたくないんだ!!」

いつもの余裕だとか、普段の飄々としたような態度なんて意識していられなかった。ただ守らなきゃって、それだけに意識がいってしまって、自分が何を叫んだかさえよくわかっていない状況だった。
ただ、前にも同じセリフを叫んだような、そんな気はしたけれど。

「………」
「ち、ちょっとシェイド……」
『坊ちゃん……』

睨みあうように、お互い視線を逸らさなかった。だって、自分が正しいとも言えないかもしれないけど、決して間違ってるとも思わなかったから。
自分の意見を相手にちゃんと聞いてほしいから、受け入れてもらえなくても理解してほしいから、引いたりなんてできなかった。

「なら、何故一人で残ろうとする」

だから正直このリオンのセリフには驚きすぎて、一瞬声が出なかった。

「あの時は神殿潜入だから一人の方が適していたと思わなくもない。だけど今回は、街中にいる大量のモンスターの討伐なんだぞ……何故一人でやろうとするんだ!どうして誰かと協力しようとしないんだ、お前は……っ!」



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