『シェイド、あなたも故郷に手紙を出したら?きっとご家族が心配されているはずよ?』
「あー……」

他人の玄関にて傍迷惑にも暗雲背負ってシャルるシャル(ややこしい)はさらっと無視したアトワイトの問い掛けに、思わず言葉を詰まらせてしまった。

「俺、手紙出せる相手がいないんだ」
「「『『??』』」」

うーん、ここで興味を持たれても困る。

「実家はどこなのよ?」
「ん?えーと……」

生まれ故郷は空の上?いやむしろ今は海底に沈めてるから海の中が正しいのか。いやいや、それってどう考えても人間の住む場所じゃねーし。あ、でも俺って人間じゃないのか……どーしよ、シャルってきそう……。

『じゃあ育った所とか、親しい人のいる場所は?』

親しいっていえば……………目の前に皆いるじゃん。ただ誰も覚えてない、じゃなくて出会った事実がなくなっちまったわけで……あ、ますますシャルりそう。

「……家族はどうしたんだ」

家族って言ってくれた人はいたけど、一つは世界が違うから手紙の出しようがないし、こっちの家族も……。

「家族は全員もういなくて……」
「え……」
「いや、一人は生きてるんだけど、生きてるとも言えない状況であって(ソーディアンだし)」
「………」
「手紙出しても読めない相手なんだわ(ソーディアンだから)」
『………』
「でももし俺が会ったとしても向こうは俺が家族だって事知らなくて」
『………』
「むしろ血縁関係にはないから家族とは言えないか……いやでもそんなのなくったって家族だって言ってくれたし……」
「(リオン、責任持って励ましなさいよね)」
「(……お前達も同罪だろうが)」
『(明らかに家族って言葉が地雷だったじゃない)』

と、俺が珍しくもデフレスパイラルならぬネガティブスパイラルに突入している時、見えない所でリオンに冷たい視線が集まっていたのは知る由もなかった。

「……ちょっと気分転換に散歩してくるわ。二人とも手紙書けたか?」
「え?あ、うん」
「一応は……」
「投函してくる。そして帰りに闘技場でくたばっているだろうスタンにトドメを刺してから引きずってくるわ」
『負けてる事前提なのね』

まぁ、勝つ確率も無きにしもあらずみたいな。
というわけで、普段以上のハイテンションでイレーヌの屋敷を勢いよく飛び出し、

「……はぁ」

幸せがどうとか気にする余裕もなく、大きくついてしまったため息。
帰る場所や、待っていてくれる人がいないっていうのは、改めて考えてみるとかなり堪える。
ハロルドは神のたまごでの別れ際に、必ず会いに行くとはいってくれた。でも、いくら彼女でももう無理だろう。だって、俺達は出会ってさえいないんだ。

「落ち込んでるヒマはないぞ、シェイド・エンバース」

気合いを入れるためにもそう呟いて顔を上げたのと、有り得ない影が目の前を横切るのはほぼ同時だった。



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