「おう、頼むな」
「ええっ!?俺読んでないんだけど!!」
「それを今からシェイドが口頭で読み上げるそうなんです。私達もまだ聞いていませんから」
『あまりいい予感はしないな』
「えっとな、

“ハロ〜、ボンジュ〜ル、カムサハムニダ〜、アンニョンハセヨ〜、愛する妹と麗しきお祖父様。
羊の毛と共にいつかは自分の頭髪まで刈られるんじゃないかという恐怖を抱いて村を飛び出してしまったボクですが、皆への愛はたとへ丸刈りになろうと変わらない事に気付いたよマイシスターあんどマイグランパ!!
こちらの近況としては、ちょっとした好奇心と未知への扉がそこにあるなら開けずして男が語れるか精神に則って密航した飛行竜がモンスターに襲われ、命からがら乗り込んだ脱出ポッドは極寒の地の湖にジャストミートし、運命的に出会った盗賊のお嬢さんと一緒に夕日に向かって走っていたらその一味と間違われて犯罪者扱いな上に、ただ今妙な喋る剣にマスターとして選ばれてしまって、世界を危機から救う旅をしている真っ最中です。てへぺろ☆
でも心配するな妹よ!!お兄さまは元気にしているよ。帰ったらぜひとも三人プラス愛しきヤギ達ヒツジ達と熱い抱擁を交わそうじゃないかベイベー♪
もっともっと君達に綴りたい愛の言葉はたくさんあるのに、どうして紙には終わりがあるのだろうか!彼方に見える地平線だって、その向こうにはちゃんと続く世界があるというのに……!!
実は今まで黙っていたがお兄さまには三分で変身が解けるというリミットがあるのです。だから今回はこの辺にしておこう。再び巡り逢うその日まで、毎日のように星達に向かってこの溢れる愛を歌うとするよ。
スタン・エルロンより”

……みたいなカンジ」

間。

「ま、マジでそれ書いてバッカスに渡しちゃったのか!?ていうか俺、かなり人格違くないっ!?」
「大丈夫だって。おバカな兄がおバカ道を突っ走りすぎてとうとう人知を超えたおバカ領域に突入したと思うだけさ」
「全然大丈夫くないし!!」

そして、かなり青褪めているスタンに、皆がかけていく追い討ちという名の個人的感想。

「むしろ変態入ってない?身内じゃなきゃストーカーでしょ、あの文面は」
「しかも、どれだけ暑苦しいヤツなんだと思われるだろうな。僕ならこんなウザい兄なら勘弁して欲しいと思うが」
「というか、スタンはいつからウ〇トラマンになったんだ?正義の味方はカッコいいな♪」
「ま、マリーさん……そんな追い討ちをかけるようなコト……」

ま、皆はちゃんとバッカスが事情を説明して手紙を渡すのを見越してるから余裕かましてんだけどな。じゃなきゃ必死に止めてるだろ、俺を。

「それより、アイスキャンディー食おうぜ。スタン弄ってたら溶けちまう」
「そうね。あ、スタン、えらく時間かかったみたいだけど、道にでも迷ったの?」

建物の影でウジウジと座り込んでいるスタンに、ルーティが持っていたアイスキャンディーの一本を手渡しながら尋ねる。

「ん?ああ……何か、女の人がデカくてやたらムサい男と口論になってて……確か、イレーヌさんって言ったかな?」

ぶふっと、ほぼ全員が口にしていたアイスを吹き出しかけた。

「げほっ、ごほっ……………んで?それでどうしたんだ?」
「何かその男、コングマンとか言ってたんだけど、いつの間にか決闘することになって、闘技場に来いって」
「……おいスタン、僕達がここへ来た目的を言ってみろ」

うおっと、坊ちゃんの怒りのボルテージが明らかに上昇傾向だよ。

「え?確か……オベロン社の誰かに会うって……イレーヌさ……………ああーっ!?」
「馬鹿かお前は!会ったのに連れて来ないでどうするんだ!!」
「ご、ごめんっ!」
「リオン、スタン降ろしちゃってもいい?三枚くらいに」
「!?」
「今晩の夕食にしないと約束できるなら勝手にしろ」
「了解っス、たいちょ〜♪」
「ま、まってッ!!ホントにごめんっ!!マジで許してっ!?」

こうして、俺達は面倒臭い事にも脳みそ筋肉なタコ頭が待つであろう闘技場へと足を運ぶハメになった。



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あきゅろす。
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