「お前達ゴチャゴチャうるさいぞ!そんなに悩むなら水難予防でアクアマリンでも持っていればいいだろうが!」

いきなり飛んで来た怒声に驚いて振り返ると、少しばかりイラついたリオンが仁王立ち。いやむしろその声に驚いたっていうより。

「な、何だ……」

あまりに皆から凝視されるのがいたたまれないのか、らしくなく気圧されるように一本後退るリオン。

「意外だわ。アンタ宝石とかアクセサリーとかには全然興味ないイメージがあったのに」
「でも、アクアマリンはいいかもしれませんわね。護符として肌身はなさず持ち歩く方もいると聞きますし、海に出る方の贈り物にもよく用いられるそうですし」
「へぇー、フィリア物知りだな。じゃあさ、ノイシュタットに着いたら宝石店に行ってみよう!どうせセインガルドに帰る時だって船に乗るんだし」

と、俺の意思とは離れた所で話が纏まりつつあるのにちょっと焦って、

「いや、いいからっ!!」

思わず怒鳴ってしまった。

「シェイド?」
「……色々考えてくれんのは嬉しいけどさ、宝石とか別にいいって。それに、トラブル起こるのも毎回ってワケじゃないし」

アクアマリンだけは、あまり身に付けたくない。アイツに渡した宝石でもあるし、俺の中ではあんまりいい思い出には繋がらない。
結局、誰も守ってくれないまま消えてしまっただけの無力なお守りは、昔の自分のようで腹立たしい。

「それにホラ、無駄に出費したらルーティが怒るじゃん」
「あら、別に構わないけど。アタシのお金じゃないもの」
「………」
「………」
「何でそこでいつものように金にがめつい精神出さないんだよ!」
「アタシをダシにしようとするからでしょーが!」

うう……これはもしかして、俺ってかなり不利な状況?切実に海難予防を考えるべき?

「ああ、そういえばダシを取っていなかったな」
「「「「「……は?」」」」」
「今日の昼食は鍋にしようと思っていたんだがな、肝心のダシを取るのをすっかり忘れていたんだ。ルーティのおかげで思い出したぞ♪」
「あー、うん。そりゃよかったわ。(……っていうか昼から鍋なの?)」
「(カルバレイスで鍋といわれるよりかはマシだが……鍋なのか……)」
「(鍋、ですか……メガネが曇りそうで心配ですわ……)」

何か、三者三様の心の葛藤がありそうだが……まあ、いいか。
むしろ俺の心配は、真っ昼間の太陽の元、船の振動を感じながらこのメンバーで鍋をつつくというシュールな光景に、どこまで耐えれるかである。

「マリーさん、いつも料理任せちゃってスミマセン……」
「気にするな。私は好きで料理をしてるんだからな。じゃ、行くぞシェイド」
「ん、俺も?」

返答待たずして、有無なくキッチンへと引っ張られて行く。
……もしかしてコレって。

「マリー、もしかしてワザとボケた?」
「……人には話したくない事の一つや二つあるだろう。それに、ルーティが引くに引けなくて困っていた」

そんなトコまで気付いてたとか、やっぱマリーは大人だな。
さり気なく誰かに優しくしてやれるって、羨ましい。

「さて、鍋の用意をするか!魚と肉とどちらがいいだろうか♪」
「そこは冗談じゃなかったのか」

こうして俺は、皆で鍋を囲みながらの我慢大会、むしろ限界まで挑戦系の戦いに挑む事になった。



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