目の前で、力なく床に膝をつく姿。突き飛ばした相手の無事な姿を見て、僅かながらに安堵の色を見せながらも、まるでスローモーションのように地へと倒れ行く身体。
その光景に重なるようにフラッシュバックする記憶。
一面真っ白な雪が、飛び散った鮮血で赤く染まる。
そうだ、焦ってモンスターの攻撃に気付けなくて、突き飛ばされて、アイツが僕を庇って怪我をして……。

(モンスター?……じゃあ何で、僕は血塗れたシャルをこの手に持っている?)

薄暗い洞窟。血溜りに伏した動かない身体。
そして、赤く染まる、青。

「スタンっ!しっかりして!!……『リカバー』ッ!!」

目の前で展開されているはずの光景が、どこか彼方で起こっているようで身近に感じられない。
ルーティが、倒れたアイツに必死になって晶術を唱え続けて……。

(僕を庇って?……違う)

“もう彼は、息をしていない”

(僕 が 、 殺 し た ?)





重い足を引きずるようにして、歩き出す。
今だ頭の中は混乱したままだが、僕にとってやらなければならない任務はただ一つ。グレバムを捕らえて神の眼を取り戻す事だけだ。他は全て二の次。

「リオンさん、どこへ!?」
「……グレバムが逃げた。今ならまだ追いつく」

悩むまでもなく、これからすべき事なんてわかっているんだ。
そうだ、何も考える必要なんてない。
考えてしまったら…。

「仲間なんて……ただ足手纏いなだけだ!」

これ以上こいつらと一緒にいたら、時々記憶を揺さぶる、得体の知れない妙な何かに呑まれてしまいそうで。

「フィリア、ちょっと代わってくれ!」
「は、はい!」

今までモンスターの群れを押えていたシェイドが、キリのいい所で下がってきた。

「ルーティ、スタンは?」
「いちおう晶術で石化は解けたけど……」
「そうすぐに身体の硬直は治らないか」

シェイドが、様子を見ながら慎重に関節の曲げ延ばしをしていると、僅かにスタンが意識を取り戻した。

「スタン……!」
「大丈夫か?」
「リオ、ン……は……?」

その瞳が少しばかり彷徨った後に僕の姿を認めた時、石化の後遺症で身体の節々が痛むはずなのに、小さく笑みをこぼしたように見えた。

「ムカつくぐらいピンピンしてるから、安心しろ」
「スタン、お前……」
「俺は、い……から……早く……グレバムを……!」

追え、と。
最後まで言わずとも、その瞳が語っていた。
スタンなんかに言われるまでもない。今すぐ行かなきゃ間に合わない。
なのに、

「………」

まるで縫い付けられてしまったかのように、足が動かなかった。

「リオン」

突然、とん、と軽く叩かれた肩。ふといつの間にか足下にまで落ちていた視線を上げると、今までになく真剣な表情をしたシェイドが立っていた。

「スタンだって、恩を売りたくてお前を庇った訳じゃない。だから、やりたいようにすればいい」

てっきり、仲間を見捨てるなだとか、そんな事を言われると思っていたのに、聞こえてきたのは予想外なセリフだった。

「やらなきゃならない事も大事だけどな、自分がどうしたいかの方がもっと大事だ。お前が何をしても、俺たちは絶対に、最後まで信じてやるから」

出会った時からいつもどこかしらふざけた風を装っていたシェイドの、初めて見る真剣なまなざし。

「シェイド、ルーティ!手伝ってくれ!!」
「オッケー、マリー!もう面倒くせぇから一気にコイツら叩き潰してミンチにするか。今日はバジリスク肉のハンバーグだ!」
「え、シェイドさ……」
「おぉーーーッ♪」
「絶対イヤァァァーッ!!」

すぐに普段のノリに戻ったが、その分余計にさっきの言葉が意味深に胸に残った。
僕が、やりたいように……。

『坊ちゃん……』

スタン達と共に行動していると、頻繁に妙な光景が頭の中を過ぎる。
それに伴って、鋭い痛みのような、それでいてどこか生温い暖かさを持った感情も襲ってくる。
ハッキリ言えば、その全てから目を逸らしたい。逃げてしまいたい。

「………」

今だ残っているモンスターと戦うシェイド達を見て、再び意識を失ったスタンを見て。

「行くぞ、シャル」

僕は、それらに背を向けた。



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あきゅろす。
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