裏口のすぐ横にあった塀を、軽く助走をつけてかけ上がる。
少し下を見れば、神殿の正面入り口には見張りが二人。
たかが見張りが何であんな完全武装してんだよいかにも何か警戒してますって言わんばかりじゃねぇかこのアホどもが!と心の中で密かに罵倒しまくりつつ、塀を蹴ってすぐ目の前にあるベランダへと飛び乗った。

「すげーな、シェイド……」
「やっぱり体重の軽さがものを言うわね。シェイドってば腹立つわ……」
『ルーティ、あなたも案外しつこいわね』

なん会話が下で成されていた事はもちろん知る由もなく、俺はその頃さっさと神殿に潜入していた。

「これくらい余裕だな。さすが俺」

誰も褒めてくんないから自分で褒める。人はこれを自画自賛と呼ぶ。
とまぁ、ちょっと寂しい気分に浸りながら、侵入した部屋をぐるりと見回した。

「……入り口は、一つ。出口はこのベランダだけで……本棚の上から向こう側に行けるか?」

とにかく、行き止まりっぽい部屋だという事だけ確認しちまえば後は臨機応変に。
ベルトの背中側に挟んでおいた鉄の塊を取り出し、天井に向けて、

パァンッ!!

ためらいなく引き金を引いた。

「うっわ、かなり響くな……」

神殿内の静寂を一気に切り裂くその音が響き渡り、あちらこちらでざわざわとした騒ぎ声が聞こえてくる。そして、だんだんと近付いて来る複数の足音。

「アイツらんとこまでちゃんと聞こえたかね」

これが、スタン達への行動開始の合図。
俺が侵入に成功したという合図であるこの音を同時に敵への囮にし、一分後に向こうが神殿内を探索開始するというかなり即席な戦略なんだけど。

「貴様、何者だ!!」
「いやいや、上手く行き過ぎだろ」

一か所だけの階段からは、溢れんばかりの神官達が出るわ出るわ。
その数ざっと三、四十人ってトコか。

「何者かと聞かれて答えるアホな侵入者がどこにいるってんだよ。あえて答えるなら“俺様”だ」
「「「………」」」

え、何?もしかして皆さんドン引き?
と思ったら、最年長っぽいのが一歩前へと出て来た。

「……ふ、ふざけるなッ!!賊め、この神聖な神殿に土足で踏み入りおって!!」
「玄関ねーくせにどこで靴脱げっつーんだよ。大体、テメェらも土足だろーが」
「そういう事を言ってるんじゃ……っておい、お前達が靴を脱いでどうするんだッ!!」

背後では皆いそいそと靴を脱ぎかけてたご様子。もしかしてここの神官ってボケ担当かな?

「ハッ!!もしやカルバレイスでのアタモニ教の布教ってのはただの隠れ蓑で、その実態は“世界に羽ばたけ!初心者大歓迎、皆のお笑い精神養成スクール”だったりするのかっ!!」
「くっ、バレたか……………ンっなワケがあるかッ!!」

……いやいや、実はマジでそうなんじゃないの?今確実に否定できる材料捨てただろアンタ。
ナイスセルフツッコミ。

「いい加減に真面目に人の質問に答えろ!この侵入者が!!」
「俺は至極マジメだっつーの。だいたい、そうやって理由も聞かずに頭ごなしに怒鳴りつけるからこっちはますますイライラするんだろうが。言っとくけどな、二次反抗期の発端を担ってるのは七割方親のせいなんだぞ!」

と、思いっきり指差して言ってみたところ、

「そ、そうだったのか……だから最近息子が家を飛び出したきり戻らなく……」
「もしかしなくても触れて欲しくない傷に触っちゃった?」

がっくりと膝をついてさめざめと涙する最年長っぽい神官さんは、他の同僚っぽい神官さん達に生暖かく慰められているようだ。

「……………何か、もう足止めこんなモンでいいよな。というか、あんまり長居したら未知なる新たな勢いに流されそうで」

というワケで、立ち並ぶ神官さん達の間を縫って本棚の方へ駆け出す。

「ま、待て貴様ッ!!」
「だーかーらー、待てと言われて…(以下略)」

走る勢いそのままに床を蹴って、本棚と天井の隙間に滑り込む。抜けた先は、がらんとした同じような造りの部屋だった。

「おい、追うぞ!!」

と、追われては困るので、ここで作戦その二。

「そうはいかないんだな。食らいやがれ、フィリア特製目眩ましボムっ!!」

懐から取り出したフラスコを、抜けて来た隙間から投げ入れる。ガチャンとガラスが砕ける音と共に、本棚の合間から眩い光が溢れた。

「「「!!?」」」
「続けていくぜ、睡眠誘発ボム!不眠症の神官さんは夢の中で俺に感謝しろ!」

再び投げ込み、ガシャンとガラスの割れた音を確認してから、心の中でゆっくり十数える。

「……九……十、っと」

そして、本棚の上からそっと向こうの部屋を伺ってみると、

「大成功。上手くいきすぎて逆に何かありそうに不気味なんですけど」

神官さん達は折り重なるようにして階段付近でバタバタと眠りについていらっしゃった。
足止めの確認終了後、心の中でお笑い養成スクールの繁栄を祈りつつ、スタン達が行っただろう後を追う。
っていうか、ここまで俺が頑張って間に合わなかったら、マジでシバく。主にシャルを。(何で僕だけっ!?by某ネガティブ代表)

「かなり神殿の裏の方まで来たな」

とりあえず、向かう先は大聖堂!という訳で、おとり作戦のおかげで人気のない廊下をひたすら走る。

「な、なんだよコレ?」

と、行き当たった先では、いきなり床に巨大な穴が空いていた。
雰囲気的に見て、この穴さえなけりゃ大聖堂っぽいような……。っつーことは何か?この馬鹿デカい穴は隠し通路か?

「隠し通路ってのはだな、あくまでも人目につきにくいようにさりげなく隠れているのを隠し通路と呼ぶんであって、遠慮もなくど真ん中に突貫工事を行なうモンじゃないだろ?」

一人で隠し通路の定義について語ったところで同意してくれるヤツもいないので、とりあえずさらに奥へと進もうとした。



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あきゅろす。
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