いまだ晴れぬまま1 夕暮れのチェリクの街を一人、あてもなく歩き回る。 宿に戻ってもこのムシャクシャした気持ちは治まらなくて、だからって気を紛らわそうと誰かと喋れば、俺の僅かな違和感に勘付きそうな奴が五人と四本……ていうかぶっちゃけほぼ全員なワケで。 結局は宿に荷物を置いただけで、そのまま外へとUターン。 こーいう時、前みたいに覚えててくれるシャルがいてくれたらよかったのに。リオンからブン取って、愚痴ったり、励ましてもらったり、当たり散らしたり、おちょくったり、イジメたり、海に放り投げたり、炎で炙ったりできたのに。(待て) 「おや、シェイド君じゃないか?」 「バルック、さん?」 何故にこんな顔合わせたくねぇヤツとこんな夕暮れの閑散とし始めた街中で会ったりするかな。 俺って実は背中に貧乏神とか疫病神とか背負ってるタイプだったりすんのか?なら、桃鉄みたいに誰かと擦れ違ったらソイツに乗り移ったりしねぇかな。……もしそうなったら絶対シャルには近寄らないようにしよ。逆に何か置いてかれそうだし。(酷) 「どうかしたのか?」 「別に……暗さ全開でウジウジいじいじしたオーラを放ってるヤツには〇ンビーも取り付くの嫌がるんだろうなと」 「?」 そりゃわかんないよな。っつーか、わかられてもその説明と以下に続くであろう会話に困る。マジで。 「何だか色々考え込んでいたようだが。少し時間はあるかい?さっきはろくに話もできなかったから、君の知る天地戦争時代についてもっと詳しく聞きたいと思ってね」 「(心の奥底から嫌だ。僭越ながら激しく面倒い事この上ないとこの場で主張しまくらせていただきたい)」 ……とはいくら俺でも人並みには常識とか目上に対する態度というものを知ってるのか知ってないのかよくわからんが(どっちだ)、とりあえず、真っ向から言えるはずもなく。 「武器屋、探してるんで」 俺はとっさに嘘をついた……というワケでもなくて。 弓矢を手放してから、どうも背中が寂しいっていうか……後方からの遠距離攻撃に使えるのが晶術だけってのも心許無いから、何かいい武器ないかなーとは常々思ってたんだ。だから嘘じゃあない。決して嘘じゃないんだ!!(しつこい) 「じゃ、俺はこれで」 がしっ 「まぁ待て、この街の事なら私の方が詳しいだろう。武器屋はないが、色々と売っているよろず屋ならある。案内してあげようじゃないか」 「いやいや、オベロン社のバルックさんともあろう方にたかが一般人の道案内なんかさせられないから。とりあえず放してくれないか、腕」 「放したらすぐに逃げるだろう。それに、リオン君がわざわざ連れているくらいなのだから、ただの一般人というわけでもないだろう」 「百五十三歩ほど譲って俺が一般人じゃないとして、これ以上行動を拘束するようなら叫ぶぞ。こういう時に使える女顔してるんだから」 「思ったより自分の容姿に対しては開き直ってるんだね。だが、一つ忘れてるんじゃないのか?」 「……何を」 「私が、“オベロン社のバルック”だということをだ」 「………」 「………」 人望も権力もあるから、多少の醜聞はどうとでも握りつぶせる、ってか? でも確かに周りがこんな異国人嫌いな奴等ばっかじゃ、俺の方が立場が弱い。 「……………くっ……負けた……!」 「はっはっは。まだまだ若いなぁ」 「……この腹黒キャラめ」 「何とでも言うがいいさ。さ、よろず屋に行こうか」 まさか先に言った自分の言葉が自分の墓穴を掘るハメになるとは……だぁぁぁっ!マジでムカつくッ!! 「こンの根性曲がり!サボテン好き!変態クソデコオールバックオヤジ!テメェなんか愛しいサボテンの世話してる最中にうっかり後退しきったデコにトゲが刺さって破傷風になるというマヌケな老後を送っちまえ!」 「不名誉なのかそうでないのかよくわからん罵倒だな。とりあえず、頭にサボテンが刺さるという、なかなかに難しい事故が起きないようには気をつけておこう」 否定はしないのかよ。オフィスに四つもサボテン置いてる時点で嫌いじゃないだろうとは思っていたけどさ。 と、口論もどきをしている間に、件のよろず屋らしき商人の所へ。 「さあ、着いたぞ。武器なり道具なりいくらでも見ていくといい」 「うるせーよオールバック……なあ、もしかしてコレってジャンクランドの方から?」 「ああ、そうだよ」 バルックに連れられてやってきたのは、主にスクラップとかを中心として売ってる露店だった。見渡す限り、鉄くず、メカの残骸、果たして毒なのか何なのかよくわかんない薬ビンに……。 「………!?」 「ん、何か掘り出し物でもあったか?」 「ちょ、コレって……」 嫌というほどに見覚えのある、黒い砲身を冷たく光らせた金属製の武器。 それは俺が天上軍にいた頃、肉弾戦の次に完璧に扱えるよう叩き込まれた銃だった。 何故ここに……なんて野暮なことは言わないさ。ジャンクランドは天上軍の不用品投棄の成れの果て。千年前の遺物の一つや二つ、転がっていたって何ら不思議じゃない。 ……ただ、もしこれがこの時代に広まってしまったら、という不安はある。 作り方さえ理解してしまえば量産は簡単だし、剣みたいに接近戦が得意でなくとも引き金を引くだけで相手に致命傷を与えられる。弓ほど扱いも難しくない。 露店の売り物をざっと眺めてみるが、これと似たものや危険と思われる品はない。発掘されなかったか、はたまた既に誰かが買っていってしまったか。 「それでいいか?こっちはそろそろ店仕舞いしたいんだよ」 「ああ、悪い。いくら?」 「200ガルドだ」 「そんだけ?」 「値段上げてもいいのか?」 それはできれば勘弁して下さい。他人の懐からの出費だろうと金にうるさいのが約一名いるんで。 「いや、サンキュ」 やっぱり他国の人間ってこともあって、俺への対応は淡々としたものだった。でもま、法外的な値段吹っ掛けられたりするよりはマシか。 [back][next] [戻る] |