『坊ちゃん……坊ちゃん!』

シェイドが出て行った扉をじっと見つめていたリオンは、ハッと顔を上げた。

「……何だ?」

バルックがスタンやフィリアと談笑しているのを横目に、小声で話しかける。

『何だはこっちのセリフですよ。どうかしたんですか?』
「別に。ただ……」

ただ、スタンに呼び掛けられてレンズから顔を上げた瞬間のシェイドの表情が、妙に脳裏に残っていた。
何かを懐かしんでいたような、それでいてどこか痛みを押さえ付けているような。

「なあ、シャル。あのレンズ、珍しくはなかったか…?」
『確かによく見掛ける物よりは少し大きい気もしましたけど……』
「……僕は一体どこで見たんだ?」

直径10cm弱の丸いレンズ。リオンはシェイドの手の中のそれを見た瞬間、妙な既視感に襲われた。
いや正確には、シェイドとあのレンズという組み合わせに。

「シェイドさん、どうかなさったんでしょうか……?」
「何かいきなり不機嫌になっちゃったわよね。顔には出さないようにしてたみたいだけど」

またもや思考の渦に巻き込まれてしまいそうだった意識を、何とか浮上させる。
今は一刻も早く、この世界を脅かしかねない任務を終わらせてしまわなければならないのだ。
そうすれば、やっかいな犯罪者くずれや田舎者、スパイ疑惑のある神官、そしてあの理解不能な不審人物とも行動せずに済むし……胸につっかえたようなこの違和感も消えるはずだ。
リオンはそう結論付けて、自分も宿で休もうと外へ歩き出した。

“手を……”

「………」
『坊ちゃん?』

何の予告もなくふいに思い出したのは、

“手を、のばせ”

「………馬鹿馬鹿しい……」

あやふやな夢の中で聞いた、冷たい手を持つ誰かの声だった。



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あきゅろす。
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