『これは海竜だ。一概に魔物とは言えんから、マリーには戦うなと伝えておいてくれ』

ルーティがマリーを説得するのをバックに、海竜を見たスタンはキラキラと目を輝かせていた。

「すっげーな!」
「海竜ベルナルド。飛行竜同様に生体金属ベルセリウムで作られてて、動力として核に……」

詰め込んでた知識をただ単につらつらと並べ上げていって、ふと言葉に詰まった。よく考えてみたら、コイツも俺も同じなんだなって。

「……核にレンズを用いた生体兵器だ。生き物というよりかは、機械に近い」
「ヘぇ〜。シェイドって本当に物知りだなあ」
『……こちらとしては知りすぎ、という感も否めないがな』

そういやさっきは色々話そうと思ってたのに、何かいつの間にか鬼ごっこへと逸れてたんだよな。ったく、誰のせいだよ。(しらじらしい)

「実はさ、色々と調べてた時に、ホンモノかどうかはわかんないけど千年前の人物の自伝みたいの見つけたんだよ……“メアリー・ベルセリオス”って人の」
『『『!?』』』

こうかはばつぐんのようだ(ポ〇モン風)

「中見てたらジェーンだのキャシーだのジョセフィーヌだの色々名前があったから、たぶん偽名だとは思う。そこに色々書いてあったんだよな……高密度レンズによる晶術の発動法とか、天地戦争のこととか、それに繋がる諸々が」

ちなみに勿論ウソだけど。

「では、天地戦争は千年前実際にあった事だと?」
「どうだろうな。創作物の可能性も捨てきれない。ちなみに、読んでてわかったのがその人の口癖。“ぐふふっ、データ採取〜☆”とかな」
『……間違いなくハロルドね』
『でもハロルドって自伝なんて書くタイプかな……?』
「“シャルティエ〜。あんまりウジウジグダグダしてると……解剖するわよ?”」
『ギャァァァッ!!止めてくださいお願いだからもう許してェェェッ!!』
「おい、シャルっ!?」

うーん、何があったんだろうな?
向こうでもこっちでも俺の知らない空白の期間の謎だ。

“―――………”

「……ん?」
「今、何かに呼ばれたような……?」

どこか遠くから呼び掛けて来るような声に、俺とフィリアは目を見合わせて同時に首を傾げた。

“フィリア……シェイド……”

これはもしや?

「……フィリア、行こうぜ」
「は、はい……?」

突然すぎる俺の行動に驚いてるみたいだけど、構わず腕を引っ張って、ずんずんと海流に近付いて行く。俺達の気配でわかるのか、海流はゆっくりとその巨大な頭を船の近くへと下げていき、パカリと大きく口を開けた。

「ま、待てよシェイド!フィリアには船で待っててもらう方がいいんじゃないか?」
「僕としては不本意だがシェイドに賛成だな。海底にいる間に一人だけ船で逃げられてみろ。笑い事じゃないぞ」
「リオン!フィリアがそんな事するわけないだろ!」
「そーだよ。俺がフィリア連れて行く理由は、おそらくこれからしょうもない発言をかましてくれるだろうクソジジィを再起不能にした後の介護を頼みたいだけだし」
「「「「「………は?」」」」」

疑問符を頭に浮かべる皆は放っといて、二人とっとと海流の口の中へ入って行った。

「あ、あの、シェイドさん。さっきの声は、やはり私達の名前を呼んでいたのでしょうか?」

神殿とか街中とか、安全で明るい場所にしか行ったことのないフィリアにとってやっぱり未知の空間は怖いのか、さっきまでとは逆に必死に俺の手を握り締めていた。
実はちょっと痛いです。男のプライドにかけて口には出さないが。

「たぶん、俺はイレギュラーかな。あの声はフィリアだけを呼んだんだよ……俺はちょっと別件があるから来ただけだ」

もしも俺が考えてる通りの返事しやがったら……本気でシメる。

「あああの、ど、どうかなさったんですかっ?」

おっと思わず殺気が。



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