2 「先に中入ってるから。ま、目眩、頭痛、吐き気と戦うのも甘い青春の一ページだと思うんだ。頑張れよ、少年」 「そんな青春があってたまるかッ!!」 背後から追って来るツッコミに、やっぱリオンはこうでなきゃ。と思いながら階段を降りていく。 実はミートソース云々は建て前。本当は、前にアイツが飛行竜で酔った時に飲ませたハーブティー作ろうかと思ってたり。 「よーおスカタンっ!どこ行くんだよっ?」 ドカッ!! 「のぁッ!?」 あれ、擦れ違いざまにかるく殴っただけだったんだけど、みぞおちビンゴかな? 「シェイド、スキンシップはもうちょっと軽く……」 「スキンシップは強く、鋭く、見えない所にボコることを言うんだぜ?」 「え、そうだったの?」 「都会ではそうなの。覚えとけ田舎者」 「わ、わかった!」 そんな俺達の微笑ましい(?)やりとりに、 「バカね」 「バカなのか?」 「バカよ」 『バカだわ』 『バカだな』 俺も同意見です。もはやバカとしか形容しようがねぇっつーか。いっそ今のうちから色々叩き込んどいたら、後に生まれるかもしんないカイルがもうちょっと頭良くなったり……………無理だな、うん。 「フィリア……」 スタンの呟きにふと視線を向けると、かなり意気消沈したフィリアの姿が。ゆっくり近付いていって目線を合わせるのを見て、これはまぁ田舎者にフォローを任せようと、当初の目的であるキッチンへ足を向けた時、 『シェイドも天地戦争については色々調べているらしいじゃないか?』 「へ?」 いきなり俺名指し?ってか何でまたそんなハナシを? 「あのさ、今フィリアに神の眼について教えてもらおうと思って。俺、本当に何も知らないからさ」 「だよな。まあ、スタンだし」 「酷い……(泣)」 落ち込むスタンは放っといてだな。 ディムロスがこのタイミングで俺に話を振るってことは、かなり警戒されているんだろう。探られてる感が半端ない。 「調べはしたけど、詳しくはないぞ。せいぜいフィリアの話の補足ができる程度かね」 俺がフィリアに向かって肩をすくめ、それを合図に話し始めた。 「……スタンさんは、天地戦争をご存じですか?一般にはただの伝説と思われていますが、どうやら本当にあった事のようです」 「天地……空と大地で、戦争?どうやって?」 「名称はあくまで例えでしょう。世界を二分する程、の意味だと思います。その天地戦争の原因になったのが神の眼だと、文献に書かれているのです」 「“世界をとてつもない災厄に巻き込んだ元凶”か……」 「私は目の当たりにしたからわかります。禍々しく、圧倒的な存在感でした……」 あのレンズを前にした時の恐怖を思い出したのか、フィリアの肩が小さく震える。 「直径6mもの巨大なレンズだ。エネルギーは質量次第だけど、大きさにも多少は比例するから、見ただけで圧倒されるのも当然だわな」 「6m!?そんな大きいレンズ、一体何に……?」 「天地戦争時代、本来は平和的活用をされるはずだったレンズなんだが、自分を上流階級の選ばれた民だと思い込んだ腐れ野郎どもが謀反してくれたお陰で、厄災の元凶になっちまったんだよ。天と地に分けられたっていうのも……」 ふと、ダイクロフトとベルクラントの名を出そうとして、やめる。 せっかくここまで伝説として、大勢に広まる事もなく平和な世界が築けてるんだから、わざわざ知られる事なんてないよな。ヒューゴの……ミクトランの企みさえ潰しちまえば、アレは永久に海の中だ。 「シェイド?」 「まあ、俺が知ってるのはこんなもん」 「シェイドさん、凄いですね。私の知識なんか全くお役には……」 「そんな事ないさ。俺が特に詳しいのは天地戦争についてだけなんだから、知識でいったらフィリアのが絶対上だろうし」 何でこう考えが後ろ向きになっちゃうかな。今思えば、よくもまあこんなバラバラなメンバーが纏まって、世界を救うなんて偉業ができたのか不思議だ。 「本当、シェイドもだけど、フィリアは物知りだな。これからも色々教えてくれよ」 消沈した空気に気付いたのか、スタンがニッコリと笑ってフィリアに語りかける。 「……やっぱ、この田舎育ち純粋培養天然スカタンのお陰か」 「え、いきなり何!?」 「養殖じゃないよね、ってハナシ」 「それは天然物のウナギのように、高級で美味ということですか?」 「う〜ん……例えるならむしろ雑草?踏まれても潰れても強く生き、頼んでもないのにいつの間にか生えてるその姿が、ウザいくらいに逞しい!」 「結論から言ったら俺ウザいの!?」 [back][next] [戻る] |