「………」

リオンはちらりと後ろを振り返って、首を押さえながら中腰になってゼェハァと肩で息をするシェイドの姿を呆れたように見た。

『何ていうか、今まで身近にいなかったタイプですよね、シェイドって』
「全く騒々しい……しかもただの馬鹿でないぶん余計にタチが悪い」

ふと、自分の手に視線を落とす。

『坊ちゃん?』
「……昔、妙な夢を見たんだ。確か、お前やマリアンと出会う前だった」

どこからしくない、マスターの過去を振り返るような言葉に、シャルティエは少しばかり戸惑いを覚えた。基本的に、彼は昔を懐古するような性格ではない。どんなに願っても、祈っても、過ぎ去ってしまった時はどうにもならないと知っているからだ。

『どんなものか、聞いても構いませんか?』
「もう十年も前の事だから、ほとんど覚えてないな。確か、珍しく風邪をひいて、熱が出て……」

辛くて、苦しくて、誰もいない部屋で……一人で。
そんな中、覚えているのは、妙にリアルに冷たく感じた手の平と、見た事もないような、“あお”。

「おらっ、何ボケッとしてんだよ。行くぞ坊ちゃん」

ぱんっ、と背中を叩かれて、何かを思い出しかけていた意識は、唐突に現実に引き戻された。

「その呼び方はやめろ!全く……わざわざ待ってやったというのに、礼の一つもなしか?」
「いやいや、お前が非常識な人間の運び方をするからだろーが……………あー、悪かったって。発端は俺です、スミマセンデシタ(平謝り)」
「……フン」

前を歩くシェイドの後ろ姿を見て、その背に流れる髪の色が、変に印象に残った気がした。



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あきゅろす。
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