いつか見た夢の中で1
「……で、いい加減に白状してもらおうか。なぜお前は晶術が使える?」
城から一歩出た瞬間、リオンからのかつてなく訝しげな視線に晒される哀れな俺。
「酷いわ!これから当分は一緒に行動する仲間なんだから、もうちょっと歩み寄りの鱗片でも見せたっていいじゃない!」
「気持ちの悪い口調と態度で誤魔化す気か?それに……僕はお前の仲間なんかになった覚えはない。こっちの質問に答えないのなら、同行を拒否するまでだ」
ううっ……案外キショいとかキモいよりも「気持ち悪い」ってストレートに言われた方が、俺みたいな繊細すぎる心にはグッサリとくるんだな……という可愛い戯言はまぁ置いといてだな。
もう何年も前の事だから、うっかり忘れてたぜ、コイツが。
「クソ生意気で目付き悪くていっつも斜めに構えたような態度で自分より確実に劣ってると判断した相手なら容赦なくこき下ろす友達少ない……むしろゼロと言ってもおかしくない可哀相な少年なんだよな……」
「〜〜〜ッ!!」
『また坊ちゃんという人物を端的に表しましたね』
これくらいの俺の発言にただ怒るだけってのは、まだまだだねぇリオン君。やっぱアイツが自分で言ってた通り、結構性格変わってたんだな。俺の知ってるエミリオなら、バッチリ全てに反論しつつ、尚且つ言葉で反撃もしながらシャル抜刀からのデッドオアアライブな鬼ごっこを繰り出してくれたというのに。
「ま、晶術云々については他の奴等と合流してから話す。ディムロスもアトワイトも……あと、ルーティもちょっと疑問感じてるみたいだし。とまぁ、それは置いといてだな」
ちょうど宿屋の前に来たあたりで立ち止まり、後ろを歩いてたリオンを振り返り、手を差し出した。
「これも何かの縁だし、折角だから俺と友達になってみないか?」
「………」
……あれ、てっきり振り払われるなり罵倒されるなり覚悟してたんだけど、無反応ってのは予想外だ。
「……お前もアイツの同類か」
「……アイツ?」
『スタンですよ。ストレイライズ神殿に行く前に、この場所で、同じように手を差し出してましたからね』
「……ふ、不覚!あの田舎育ち純粋培養系爽やか天然スナック菓子と同じ事をしていたとは……!!」
『え、そこって悔しがる所なんですか?』
「当たり前だーっ!遠回しに俺イコール田舎者という不名誉な等式が成り立っちまったんだぞ!?」
『そんな大袈裟な……』
「少しは黙れッ!意味の分からん発言ばかりするんじゃない!!」
ようやくちょっと立ち直った坊ちゃんの怒声が響き渡る。おいおい、井戸端会議中のご婦人方が何事かとコッチ見てるって。明日のダリルシェイド婦人会の噂話が、客員剣士L君(16)と謎の不審人物の痴話喧嘩ーなんて事になったら恥だろ?俺だってそんな噂は立てられたくもねぇし。
「とにかくだ。あの馬鹿にも言ったが、僕はお前達のように、図々しくて、能天気で、馴々しい奴が大嫌いだ!友達だ仲間だなどと、そんな馴れ合いが必要だと言うのなら、お前の協力は必要ない。この街で大人しくしていろ!」
と言い切って、港への道をさっさと歩き出してしまう。
ふーん、そういう事言うわけ。なら俺も奥の手その2を出してやる。
「この街に、ねえ。んじゃ、屋敷にいたあのメイドさん本気で口説き落とそっかな。確かマリアンって名前だったっけ?」
案の定、ピタリとリオンの足が止まる。
「ここにいたって大してする事もねーし、マリアンと素敵な恋人ライフを満喫してーなぁ。全く脈がないわけでもなさそうだから、押せばいける気がする」
目の前に立ちすくむ背中から、禍々しさを通り越した可視的なオーラが見える気がする。むしろ般若か仁王並の恐ろしい影がうっすら見える。(笑)
「でもな……任務付きとはいっても旅も捨てがたい。ましてやたかが一般人が簡単に他国に出入りできる機会ってあんまりないし。どうすっかなー……って、うぉっ!?」
見るからに葛藤してますってカンジで大きめな独り言を語ってたら、突然首元がぐいっと引っ張られて、
「……あのー、リオンさん?」
ずるずるずる。
「少しでも戦力になるというのなら一緒に来てもらう。ついでに、ダリルシェイドを出たらそのままどこかで永住しろ。できれば二度と戻って来るな」
ずるずるずる。
「え、俺ってばいきなり国外追放?何でー?俺は無実だー!冤罪だー!坊ちゃんは横暴だー!国家権力の乱用……もとい私情挟みすぎだー!テメェ見るからに甘い物好きそうだー!ついでに俺はセブ〇の巨大なプリンアラモード見て胸焼け起こしかけたー!そういや期間限定のビッグサイズなプッ〇ンプリン買おうと思ってたのに忘れてたー!愛してるぜマリアーン!!by坊ちゃ、」
「黙れと言っているんだ!!いきなり馬鹿な事をほざきだすなッ!!」
いや、だって……さぁ?
ずるずるずる。
「……引きずられて何を笑っているんだ、気持ち悪いヤツだな」
「え、これって遠回しにお前はドMかってけなされてる?人権心外?」
『でも、シェイド……ホントに顔ニヤけてますよ?』
だってさ、何も知らねぇのに、覚えてねぇのに、あの頃と同じ扱いされてる事が、何かスッゲェ嬉しくて。
ズルズルズル。
「……で、でもそろそろ……限、か……い……」
『ぼ、坊ちゃーーーんッ!!止まってッ!!ストップ!!シェイドの首締まってますって!!』
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