数日かけてようやく書庫を読破し、とうとうする事なくなったな……とこんな状況下ながらも退屈を謳歌しそうになってた時。

「レイノベルの所、邪魔しに行くか」

思い立ったら即行動とばかりに、城への道程をぶらぶらと歩く。
こんな風に呑気にしててもいいのかって気持ちもあるけど、今のままじゃ身動き取れないってのが現状だったりする。グレバムの後を追った所で俺じゃかなり無茶な強行突破でもしなきゃ神殿には入れないし、ノイシュタットに行った所で何もできない。アクアヴェイルは国交が途絶えてるし、ファンダリアも通行証がないから入れない。

「万事休す、か……」
「シェイドさーんッ!!」

城の門を潜った辺りで、後方から思いっきり名前を叫ばれた。

「な、何事……って、アンタら!!」

バタバタと駆け寄って来たのは、いつぞやの飛行竜の船員さん達。

「久しぶりーってほどでもないか。あれ……何かあったのか?」
「ひ、飛行竜が、奪われたんです!!」
「え?」
「ほぼ修理も完了して、今日の試運転で最終確認をしようと思っていたんですが……突然現れたモンスターの群れに行く手を阻まれて、何とか逃げ出したものの、見上げたら飛行竜が……」
「飛んで行っちまった、か。他の皆は無事なのか?」

せっかく助けたのに、こんなとこで死んでもらっちゃ報われない。それに、できるだけ多くの人を助けるって誓ったんだ。

「皆、かすり傷程度です。それで私達は、今回の事を報告にと思いまして……」
「なあ、俺もそれに着いてって構わないか?」

ようやく事態が動き出した……このチャンスを逃すわけにはいかない。
俺は、船員さん達の後に着いて、謁見の間まで突っ走った。そして、事の顛末を聞いた陛下は、やはり浮かない表情でこめかみを押さえてしまう。

「……目的はソーディアンではなく、飛行竜そのものだったという事か?」

このたった数日の間に起こった二度の襲撃。これはセインガルドとしては痛い所だろう。

「いや、最初はきっとソーディアンも狙ってたんだと思います。相手にとっては、どちらも手に入ればベストだったんだ」

だけど、俺やスタンといった乱入者のせいでディムロスはマスターを定めてしまったから、もう一つの目的である飛行竜の奪取だけでも、と今回の奪取に至った。
と、陛下がじっとこっちを見つめてるのに気付いた。

「……何か?」
「シェイド、そなたに飛行竜奪還の任にあたってもらいたい」

室内が一斉に、色んな意味でどよめく。

「陛下!このような素姓も知れぬ輩にそんな大任……!」
「ドライデン……ならばそなたら七将軍を派遣すると?たとえ敵からの奪還に成功したとして、誰一人操縦できんのならば意味がない。逆もまた然り。艦長は操縦の腕はあろうと、戦力が圧倒的に足りん」

再び俺の目をじっと見て、威圧感のある口振りで告げる。

「私には、お前が一番適任だと思うのだ。やってくれるな、シェイド・エンバース」

セインガルド国王からの勅命となれば、大概の所はその大義名文を掲げれば辿り着ける。俺にとっては願ったり叶ったりな任務だな。
と、了承の返事を返そうとした瞬間、背後の謁見の間の扉が、バンッと強めに開いた。

「おお、リオン!……あー、シェイド……すまないが少し退出してくれんか?」

リオンが帰って来たってことは、神の眼の件だな。俺は部外者だから、話の内容を聞かせるわけにはいかねぇってか。

「そんな悠長な事は言ってられるかよ、相手はモンスターの群れを差し向けて来たんだぞ!」

一芝居打つっきゃねぇっての!これで、リオンが食い付いてきてくれれば!

「モンスターを操っただと……?」

よっし、来た。

「ああ、それで飛行竜が奪われて……俺がその奪還の任にあたったってワケ。俺なら自動操縦ナシでもちゃんと動かせるからな」
「………」

しばらく俯き加減に考え込んだ後、リオンは、俺と一緒に来た船員達にだけ退室を命じて、徐に口を開いた。

「ストレイライズの神の眼が、司教のグレバムという男に持ち去られました。そして……おそらくは飛行竜を奪ったのもヤツでしょう」

驚く陛下達に、リオンはストレイライズ神殿であった事や得た情報を語る。

「なるほど、それでカルバレイスへの船を……わかった、すぐに用意させよう」

陛下の言葉に、入口で立っていた兵士の一人が駆け出して行った。それを見送った直後、

「でしたら陛下。飛行竜奪還は、神の眼の件と共に、リオンに任せてはいかがでしょうか?」

……黙ってるから忘れてるトコだったぜ。このオッサン、ろくな事言い出さねぇよな……。

「ヒューゴ様、その件はさっき俺が国王直々に任命されたはずだ。いくらあなたといえど、この決定を覆す権利はないはず。それに目的が同じというなら、俺がリオン達に同行すればいい話じゃないか?」
「……僕としては、これ以上お荷物は増えて欲しくはないんだがな。それでなくとも戦えないのを一人連れ歩かなければならないというのに、この上、剣の腕はいいとしても一般人まで増えるなんて」

坊ちゃんのくせしてクソ生意気な事言いやがって。なら、ハッキリ切り札見せてやろうじゃん!

「リオン、俺が素質あるって忘れてるんじゃねーの?それに……」

手の平にぐっと力を貯める。すると、一気にそこに冷気が集まり、頭一つ分くらいの氷の塊ができていた。
これくらいのパフォーマンスなら詠唱破棄で余裕だし。

「「「「『!!?』」」」」
「俺は、晶術が使える。ま、これで脱一般人ってトコかな」

手の上の氷を勢いよく真上に投げ付け、小さくファイアボールを当てる。それは一瞬にして溶けた上に残った水をも蒸発させ、後には何も落ちて来る事はなかった。ここの天井高くてよかったぜ。

「どうだ、これでもまだ文句あるか?」
「な、なぜお前がソーディアンも持たずに晶術を……!?」
「俺だって人様に言いたくない事の一つや二つあるわけだし?ま、同行を認めてくれるってんならちょっとくらい教えてやってもいいけど……」
「……ッ!勝手にしろ!」

こうして、めでたくも俺の飛行竜奪還任務とリオン達の同行が許可されたのだった。
……ハァ、幸先不安だぜ。



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あきゅろす。
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