「シェイド、どうした?」

呆然として立ち止まった俺に、マリーが心配そうに声を掛けてくる。
そうだ。今は惚けてる場合じゃなかった。これからどうするかを考えないと。

「おい、お前達三人はここでしばらく大人しくしていろ」

王城に入ってまず向かったのは、地下牢。スタンとルーティとマリーは武器と荷物を取り上げられ、押し込められた。

「ちょっ……女の子をこんな所に押し込めるとか、どーゆう了見よっ!!」
「ルーティ、そこは自分で言っちゃダメだって。時を見計らってだな、ちょっと仮病のフリして牢屋番が近付いてきたところで、急所蹴りして抜け出さなきゃ」
「あ、ナルホド」
『まるでチカンの撃退方法ね』
『脱獄は罪が重くなるからやめといた方が……』
『口に出してる時点で実行する気もさせる気もないんだろう』
「馬鹿な事で時間をとらせるな!シェイド、お前は先にソーディアンと謁見の間に行ってもらうからな」
「了解っす、たいちょー」
「意味の分からん事ばかりほざくんじゃない!とっとと行けと言っているだろう!」

坊ちゃんってば短気だな。と、ふと横を歩いてるソーディアンを抱えた兵士さんに視線を向ける。

「俺が持って行きますよ。どうせ行き先は一緒だし」
「そ、そうですか?じゃあ、お願いします」

と、剣を手渡した途端にものすごい勢いで走っていってしまった……そんなに忙しいのか?それともアレか?トイレ限界だったとか?(放っといてやれ)

『マスターを得たと思ったら飛行竜はモンスターに教われるわ、ポッドは極寒の地の湖に落下するわ、果ては同じソーディアンマスターに骨董品として売られそうになるわ』
「うわ、マジで?ルーティか」
『未遂ですんだけどね』
「骨董としてなら売れなくもないだろうけど、素質のない奴からしたら、ただの装飾の少ない飾りモンだしな……高値はつかないだろ」

ま、ルーティからすれば、雀の涙ほどだろうが金が必要なんだよなぁ。今回ばかりは俺も金銭面での協力はしてやれないし。

『シェイド、あなたってソーディアンに詳しいのね?』

そろそろ、ディムロス達には話しといた方がいいかもな。

「まあな。天地戦争時代の事については色々詳しいつもり」
『『………』』

ん?何か、様子がおかしいぞ。

『天地戦争、といえば……この時代ではただのおとぎ話よ?どうしてわざわざそんな』
『それに、あの頃の文献などほとんど残っていないんじゃないか?調べるといっても方法がないだろう』

何だ、この矛盾……いや、大きな差異は?
俺の認識とこの世界の常識とでは、決定的に何かが違う。
何が、変わった?

「なあ、ちょっと聞きたい事があるんだけど」
『……何だ?』
「俺と同じ名前の男を知ってるか?その天地戦争の時代にいたらしいんだけど」

直感的に、とてつもなく俺にとって期待したくない答えがくると、

『いや、知らないな』

訳もなく、そう思った。

「……そっか。アトワイトも?」
『ええ。聞いた事もないわ』

二人の声や雰囲気には、わずかの動揺も見られない。嘘を吐いてるわけじゃないって事はつまり、この世界で決定的に違う何かっていうのは。

『その人がどうかしたの?』
「いや、俺の……勘違いだった。気にしないでくれ」

天地戦争での俺という存在が。
ハロルドや、シャルや、カーレルや、ディムロス達との思い出が。
出会ったという事実さえも、全てなくなったということ。

「うん……何でもない」

帰る場所を、一つ、失った。



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