消えたもの、失ったもの1
ハーメンツからダリルシェイドへの道中、何を聞かれても完全黙秘で通し切った俺に向けるリオンとルーティの視線は、かなり訝しげなものだった。
特に何も考えてないスタンやマリーと和気あいあいと会話しながらも、首筋に突き刺さる約二名の視線。

「そんなに俺の事気になる?あんまり見つめられると照れるだろ」
「「うるさいっ!!」」

だって、どうせ向こう行っても同じ事喋るんだし、二度手間面倒いし。
あ、ちなみに性別の問題だけは、ハーメンツを出た瞬間に解決させた。
うっかり女の子発言をしかけたスタンを必死の形相で止める船員達を見て、俺が男だと認識してくれたらしい。うん、皆さん懸命な判断だ。

「ダリルシェイド、か……」

まだ街として機能してるダリルシェイドを見るのは、本当に久し振りだった。建物の位置も街の構造も全然変わってないし、店も、あの渡り廊下で繋がってる宿屋も……オベロン社も。
これが、今から一年の内に無残な瓦礫と化すか否かは、俺のこれからの行動次第。
落ち着いて、でも迅速に、尚且つ先を見据えた慎重な判断が、全ての鍵となる。

「シェイドもダリルシェイドは初めてなのか?」

唐突にスタンに話しかけられて、自分の思考に沈んでいた意識を浮上させる。

「いや、久々ではあるけど、初めてじゃない。なんで?」
「ん?なんかさ、結構キョロキョロしてたから……ほら、オノボリサンって言うのかなって」
「俺はただ懐かしいから見てただけだっつの。お上りさんの意味も知らなそうなどこぞの田舎者のスカタンと一緒にすんな」
「な、田舎者って言うなよな!」
「リーネ出身だなんて、十分田舎者じゃない」
「田舎もいい所かもしれないぞ、ルーティ」
「そうだよ!空気は綺麗だし人は皆優しいしヤギも羊もいっぱいいるし……」
『スタン、お前の発言がすでに田舎だって認めているようなものだぞ』
「貴様らいい加減に黙れっ!拘束されている身で呑気に喋るな!」

あらら、怒られちゃったよ。

「俺は別に拘束されてないし」
「お前も身元が確認できない以上は飛行竜に密航した不審人物だ。扱いを変えるはずがないだろう」
「ですが、リオン様!シェイドさんは私達を助けて下さって……!」
「そうです!墜落するしかなかったあの状況で生き残れたのは、シェイドさんのお陰なんですよ!」
「しかも、不思議な術で俺達の傷を一発で治して下さって……」
「「『『『!?』』』」」

あっちゃ、船員さん達の前で安易に晶術使ったのはマズかったか。
無知なスタンは放っといて、晶術の事を知ってる二人と三本は、さすがにその不思議な術については心当たりがあるわけで、

「おい、お前……」

ますます俺の不審人物扱い確定か。

「あっ!いらっしゃったぞ!!」

リオンが何か問い掛けようとしてきた時、見えてきた王城の前で、十何人かの人物が一斉に手を振りながら駆けて来るのが見えた。どこか見覚えのある顔ぶれだ。

「ご、ご無事で何よりです……!!」
「墜落したと聞いた時には、本当にもうダメかと……」
「アンタら、もしかして……飛行竜に乗ってた奴等か?」
「ええ、そうです!あなたが脱出ポッドに詰め込んだ者は、全員無事、地上に帰還しました!ここにいない者も中で手当てを受けていますが、命に別状はありません!」

どどっと押し寄せてきた勢いにちょっと引き気味だったけど、船員さんたちの元気そうな笑顔を見て、その報告を聞いてると、ぐっと込み上げてくるものがあった。

「っ……しゃあーーーッ!!生きてんじゃん!!助かったじゃんっ!!」
「うわぁっ!!ちょ、シェイド……さ、ん……?!」
「「「せ、船長ーッ!?(羨ましいぞコラァァ)」」」

喜びのあまり思いっきり船長に抱き付いたら、何故か顔真っ赤にして倒れられてしまった。
……ハッ!まだ体調万全じゃねーのに力入れすぎた?

『それにしても、あの状況下でよく冷静な判断ができたな』

うーん、話しかけてきてくれるのはいいんだけどさ、ここで返事すると俺ってただのイタい奴か電波野郎の烙印が押されるんだよな……。
というわけで、また後でー、と船員さんたちとは別れて王城へと歩き出す。

「大して冷静でもなかったよ。必死だっただけだ」
「そのワリには、かなり動じてなかったように見えたけどね。アタシには」

……ルーティ?

「何でルーティが知ってんだ?」
「実はさ、ルーティとマリーさんもあの飛行竜に乗ってたみたいなんだよ。俺もディムロスのあった倉庫の前でバッタリ出くわしてさ」
「……お前、密航の罪状が増えたな」
「あ、ヤバ……」

ルーティとマリーが、飛行竜に乗ってた?
そんな馬鹿な。前の時にはこんな事なかった。それに、密航したのがフィッツガルドからだってんなら、俺がこの世界に(文字通り)落とされる前だろ?
何で運命がすでに変わってるんだ。定められてしまった運命を変えられるのは、俺しかいないはずなのに。
……なら、もうあの世界とは決定的に違う何かがあったっていうのか?



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あきゅろす。
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