4 「おい!どうした?」 まだちゃんと保ってたバリアを解いて駆け込んだ操舵室。そこは明らかに、慌ただしさと、絶望的な雰囲気が漂っていた。 俺が目についたのは、その中央で二人の船員に抱えられるようにして必死に舵をとる人物。 「艦長、アンタ怪我してたのか……?」 片手で押さえる腹からは、止めどなく血が滴り落ちていた。 「……もうここに残っている者で、飛行竜を操縦できる奴は私以外おらん……、っ!」 頽れる身体に急いで駆け寄り晶術を唱えるものの、その顔色は悪い。たぶん、今の今までかなりの無茶をしてだんだろう。 「確かこの艦、自動操縦機能みたいの付いてただろ!アレで少しでも保たせとけ!」 「む、無理です!計器類は動いてますが、演算機能が完全にストップしてて……動力部もモンスターの攻撃でほとんどが止まっています…!」 「後は強行着陸を行うしかないと艦長も……ですが……」 船員達の視線の先、一応の回復はしたとはいえ重傷には違いない艦長が、顔色も悪く横たわっていた。 この最悪な状況の中で、彼の操縦を期待するのは無理だ。 「操縦できる人間はいなくても、メンテナンスに関わったことある人間はいるんじゃないか?」 「整備経験のあるものは、私も含めて三人ほどですが……」 「上等。わかる部分だけで構わないから、飛行竜の構造教えてくれ。水場は遠いから、草地か森林に胴体着陸する」 こうして悩んでる間にも、飛行竜の高度は確実に下がっている。このまま何もせず墜落するくらいなら……最後まで足掻きまくってやろうじゃん。 「き、君は、飛行竜の操縦経験が?」 「ないに決まってんだろ。操縦法はよくある飛空挺のタイプだかるいいだかるいいとして……船体構造がさっぱりわからん」 「だが、機械が……!」 「計器類が無事なら、あとは計算すりゃ問題ない」 「どれだけ複雑な計算が必要だと……!!」 複雑なのはわかってるとも。スパコン並みの演算能力があればいいわけだろ? なら余裕余裕。俺の頭で何とかなる。マルチタスクは得意分野です。 メイドイン天上軍の頭脳ナメんなよ! ファンダリアの山奥では、蒸発しきった湖底で一人の青年が赤く輝く剣を握り締めて佇んでいた。 「はぁ、はぁ……、っ……!」 突然ポットから墜落し、この冷たい水中に投げ出され、そんな状態で初めて晶術の力を解放した身体は、体力的に限界に近付いていた。 ぐらり、と彼の濡れた金髪が揺れ、一気に力が抜けてゆく。 『スタン!……おい、スタン!!』 「……や、くそく……ダリル、シェイ、ド……に……」 それだけを呟いて、スタンの意識は闇の中に吸い込まれていった。 「た、助かった、のか……?」 「……信じられない」 「そんな事言われても現実は受け入れてもらわなきゃ。いつでも大事なのは信じる心だ」 グッと親指突出して言ってみるものの、 「「「「………」」」」 もちろんだが誰からの反応もなし。寂しすぎる。 というわけで、何とかハーメンツの北にある森の中に強行着陸できました飛行竜。 かなり荒っぽかったけど、木をクッションにできたお陰で艦自体にはそれほどの衝撃もなかったし、残っていた船員七名も全員怪我なく無事脱出。飛行竜も想定よりかは原型を留めている。 「って、艦長は!大丈夫なのか?」 ホッとしてる場合じゃなかった。とにかく、どっかで休ませなきゃ……ってこの場合、あそこしかねぇよな。 「ここから一番近い街は、ハーメンツですね!」 「じゃあ、急いで行こう。飛行竜は……外装自体には大した損傷はなさそうだし、これならすぐに修理もできるだろう」 「なら、機体は一旦ダリルシェイドに戻ってからまた回収しに来たらいいな」 着々と会話が進む中、俺は一人晴れ渡った空を見上げて、小さくため息をついた。 スタン、どうやら思ったよりも早く再会できそうだな……………それから親友よ、最悪の初顔合わせになりそうな予感がするぜ。 「そういえば、君の名前は……?」 「覚えてもらうほどのヤツじゃないんで、お構いなく」 「とんでもない!!君は我々の命の恩人だ!その細腕で並み居るモンスターをなぎ払い、男顔負けの素晴らしい操縦を、」 「ちょーっと待て」 何か久々に嫌な予感が。 「自己紹介が足りなかったな。シェイド・エンバース、17才(ということにしている)。何度間違われようが、それこそ全世界の人間どころか動植物、微生物、細菌類、果ては未確認宇宙生物ににまで否定されようが、れっきとした“男”だから」 「「「「男!?」」」」 コイツら今すぐ消し炭にしてやろうか。 [back][next] [戻る] |