さっきよりも幾分か安らかな寝息をたてて眠る少年を見て、シェイドは握っていた手を離した。
が、それは逆にしっかりと握り返されていて、簡単には振りほどけそうもない。

(ま、仕方ないか。まだこんなガキなんだし。それに…)

刻々と近付く別れを、自分の何かが感じ取っていた。
おそらくシェイドがここに来てしまったのは、何かの間違い。ちょっとした時の迷子にでもなってしまったのだろう。
その証拠に、眼前に翳した手は、透けて向こう側の壁が見えていた。

(ちゃんと話もできなかったのは残念だけど…… まあ、いいか。決意表明もできた事だし)

この出会いが掻き消されることなく、小さな波紋となり得るのか。
はたまた、本来なら無き出来事として、歴史という名の流れに抹消されるのか。

「どっちでもいいさ、問題はそこじゃないし。今大事なのは、これから俺がどうなるか、何かができるのか、って事だ」

そして、少年に掴まれていた手がするりと抜ける。それは少年が握る力を弱めた訳ではなく、自分の体が質量を失ったからに他ならない。

「そろそろ、時間だな……」

呟きと共に、再び目の前で小さな光がパチンと弾け、それがだんだんと大きな渦となってシェイドを飲み込んでゆく。
そして、光が消えた後には、確かにそこにあったはずの青は、どこにも見当たらなかった。










部屋の隅の机の上に、この殺風景な部屋に似つかわしくない物が置いてあったのを、シェイドは知らない。
アクアマリンのペンダントが、ひっそりと、光を放っていた。





―――絆は、消えない。



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