パチンと目の前で光が弾け、地にしっかりと足が着いた。ふわふわと曖昧だった自分という輪郭がはっきりと形になった、というべきか。
恐る恐る目を開くとそこは、どこか見慣れた、でも、見覚えのない部屋の中だった。

「ここは……」

呟いたと同時に、室内から何者かの苦しそうな呼吸を感じて、咄嗟に振り返るったシェイドの目に入ってきたのは、小さく膨らんだベッドと、その上に散らばった黒い髪。誰かが横になっているようだ。
現状がさっぱりわからないながらも、眠る誰かがそばにいるというだけで、自然と足音を忍ばせてしまう。

「エミリオ、なのか?」

ベッドで眠っていたのは、シェイドが知っているよりかなり幼い姿をした親友。
おそらく間違いはないだろう。面影がはっきりとあるし、幼さのせいかより姉に似て見えたが、この頃のルーティはクレスタの孤児院で世話になっていたはずだ。物が少なく小難しい本ばかり並ぶ殺風景な室内と、ルーティとがうまく繋がらなかった。

「……、っ……」

熱でもあるのか、頬は赤く、呼吸もどこか荒い。
シェイドはベッドの縁に腰掛け、額にかかっていた、少し汗に濡れた前髪を払ってやった。その時に触れた肌はかなり熱く、病状が酷い事を触れた手の平に伝えてくる。

(ったく、こんなガキが熱出してるってのに、誰も側にいないとか……そりゃエミリオも捻くれるよ)

と、屈めた肩からサラリと落ちてきた物に目を囚われた。
それは、懐かしい青の髪。

(俺の身体も、時の流れに合わせて逆戻りしたのか?)

理屈はもはや分からない。
だがシェイド自身、世界の意思などという実態の分からない物によって生み出され、振り回され、これまで散々相手をしてきたのだ。今更何が起きようと一々驚いていられない。
そんな事を考えながらふとベッドサイドに目をやると、そこには水をはった洗面器や、タオル、水差し、コップ、薬などが置いてあった。誰かが看病はしていたようだが…。

(一番大事なモンが足りねーよ)

心細い時に、側に誰かがいる事で得られる安心感。それがなかった。
寂しさは心を、そして身体を弱くしてゆくだけなのに。
シェイドは濡らしたタオルを固く絞り、そっと少年の額にのせてやる。すると、今まで固く閉ざしていた瞼がうすく開き、焦点の合わない瞳で、側にいる人物を見つめた。



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