3 客室に入って、一気に気が抜けたのか、それぞれがぐったりとベッドに座り込んでしまった。 「時間旅行から帰ってみりゃレンズはなし。おまけにレイスはいきなりウッドロウさんをひっぱたくし……あれにはマジでヒヤヒヤしたぜ」 「グーでいかなかっただけマシだろ」 「一国の王に手を上げる事自体考えられんのだが……」 ジューダスは溜め息をつきながら椅子に腰掛け、レイスを真剣な表情で見る。 「リアラの正体は神の化身だった。今度はレイス、お前が白状する番だ」 全員の目が、一斉にレイスに向く。だが、当の本人は肩をすくめるのみ。 「って言っても、俺も分かんない事だらけだし」 「こっちに飛ばされる前、世界が生み出したとか何とか言ってた気がしたけど……」 「俺としてはそこが一番わけわからん」 「じゃあ……」 ずっと黙っていたリアラが口を開く。 「レイスの求める幸せって、なに?助けられなかった彼って、どういう事?」 それを聞いた瞬間、レイスがとても悲しそうな顔をした事に気付いた。 リアラは、悪い事を聞いてしまったと、謝ろうとしたが、その前にレイスが言葉を紡ぐ。 「自分のすぐ近くにいる誰かに、ほんの少しだけ手を貸してあげる事。俺が目指すのは、どんなに小さくても確実に、より幸せだろう未来を与える事」 「でも……それじゃあ、手の届かない人はどうするの?その人達は、幸せになれないの?」 リアラの疑問に対して、レイスは静かに首を横に振った。 「なら、手の届く所まで俺が走って行けばいい。幸せにするのは他人の役目じゃない。自分で掴み取らなきゃ、本当にその幸せを感じる事なんてできないもんだ。絶対多数の幸福の陰で誰かが不幸になってたら意味がない。でも、万人が同じだけの幸福になるのは不可能だ。俺がやろうとしてるのは、幸せになるためのほんの手助けさ。それはきっと、出会う人一人一人が違う形をしてるから、だから俺は少数の……って言ったんだ」 最後に、これが俺のやろうとしてる事だよ、と締めくくる。 「でも、そんなの永遠に終わらないわ!途方もなさすぎる……」 「わかってるさ。なら俺は、この命ある限り、それを続ける」 「手が届かずに……死んでしまう人だっているかもしれない!」 「それを仕方なかった、の一言で終わらせようとは思ってない。最後まで諦めちゃ駄目なんだ、って……俺は、あいつを死なせてようやくそれを学んだよ」 室内は嫌な沈黙に包まれる。その静寂を破ったのはジューダスだった。 「……休もう。もう今日はすることもないしな」 「そうだな」 ジューダスとレイスは、割り当てられた部屋 へと向かった。 「それもアイツの……仲間だったという奴の考えか?」 「いや、これは俺の持論」 レイスは部屋に入って、ジューダスに背を向けるようにしてベッドに寝転がった。 「さっきも言ったろ、手を放しちまったって……俺はきっと、アイツを救う術を持ってたんだ。だけど……」 その後、レイスが続きを話し出す事はなく、それぞれが何とも言えない複雑な気持ちで夜を過ごした。 そして翌朝、血相を変えたナナリーが飛び込んでくるのである。 [back][next] [戻る] |