幸せのカタチ1
レイスが気付くと、辺りは冷たい温度に包まれていた。

「ハイデルベルグ……戻って来たのか」

すぐ近くに五人の気配がして、そちらに近寄る。どうやら全員気を失っているようだ。
レイスは、どうせ起こすなら皆を運べるようにと、一番力のあるロニを

げしっ

「ぐふッ!!」

渾身の力で蹴り起こした。

「な、ここは……レイス?」
「やっと起きたか。こんなところで寝てたら、風邪ひくどころか凍死するぞ」

二人の話し声に意識が戻ったのか、みんな体を起こし始めた。

「戻って来たのか、僕達の時代に……」
「ああ、たぶんな」

ホッとする一同だが、一部だけ暗い雰囲気が漂っている。

「………」
「………」

カイルとリアラだった。
それにいたたまれなくなったのか、ロニが場を盛り上げようと声を掛ける。

「まぁ、無事に十年前に戻って来たんだし……な?」
「ロニ、それかなりウザいから」
「ホント、もうちょっと空気ってモンを読みなさいよ」
「うるせぇ!だいたいお前、用が済んだんならとっとと帰って……」

畳み掛けるように言われて、自分でもまずかったと分かっていたのか声を上げるロニ。
だが、そこでふと気付く。

「どうしてお前ここにいるんだ!?」

一斉にナナリーに視線が向いた。

「知らないよ。光に包まれた、と思ったら、いつの間にかここにいたんだから」
「あー、悪い。そういやナナリー以外って言うの忘れてたわ」
「ご、ごめんなさい!今すぐあなただけ未来に……」
「ストップ。アタシもついて行くよ」

ペンダントを握り締めたリアラを制して、ナナリーはキッパリと言い放った。

「エルレインが勝手に歴史を変えて、都合のいいようにしてるんだろう?なら、アタシはそれを止めてみせる。アイツの好き勝手にはさせないよ」
「だが……」
「ナナリーがこう言い出したら止まらねーよ。それより、ここどこだ。城門前?」
「そうじゃないかな。アタシは初めて見るけど……お城っぽい大きな建物があるよ、ちょうどレイスの左手側。一緒に行こうか?」
「あー……いや、今はカイルたちを見といてやってくれ。じゃ、お先に」

ナナリーの厚意を断り、レイスは城の方へ向かって歩き出した。
飛行竜の激突で降ってきた瓦礫や、激しい戦闘で壊れた床石に躓きかけたりしつつ、半開きのままになっていた城門の隙間から中へと入り込む。

「こりゃ結構大変な事になってるな……」

盲目ゆえにその光景は分からないが、あちこちから聞こえてくる呻き声が状況の凄惨さを伝えてくる。
レイスは、一番近くにいたらしい兵士に回復晶術をかけた。

「『ヒール』!」
「あ、あなたは……」
「これで動けるな?頼む、重傷者のところに連れて行ってくれ。治療はできるけど、目が見えないんだ」
「わ、わかりました!」

幸いにもこの場にいた重傷者は三人だけで、そのどれもが致命傷は免れていた。他に優先すべき傷病兵に先を譲って、待機していた者ばかりだったらしい。意識もはっきりしている。

「『キュア』!……おい、他に怪我してるやつはこっちに来てくれ!俺が動き回るよりその方が手っ取り早い」

レイスの目が見えないらしい様子に気付いたらしく、傷ついた兵士達はお互いに手を貸し合いながらも寄ってくる。
一人一人癒すよりも、一気に回復させた方が早いと判断し、詠唱を始めた。

「……『リザレクション』!」

ホール一杯に淡い光が広がり、傷を癒す。
それでも完治しきれなかった者もいたようで、レイスは改めて彼ら一人ずつに回復晶術を唱えていった。

「ウッ、ドロウ……様、は……?」

特に重傷を負っていた兵士が、必死に言葉を紡いでそう尋ねてくる。レイスは安心させるように、それでいて力強く、手を握ってやった。

「大丈夫、無事だよ。だからお前も頑張って生き残らなくちゃな。誰か一人でも死んだら悲しむ。お前らが王と仰いで守ってきたのは、そういう人だろ?」
「レイス!!」

その時、カイル達が駆け寄ってきた。

「悪いな、一人で頑張らせちまって……『ヒール』!」

ロニも、手近な兵士に晶術をかけ始めた。他の皆も、回復晶術ができなくても、介抱したり、グミを食べさせたりと手を貸している。
レイスは、怪我の手当てをしながら、リアラに声を掛けた。

「どうしたの、レイス?」
「たとえばだけど……これが、俺の求める幸せの一つだって言ったら?」
「え……?」
「苦しんでいる人を助ける事。傷付いた人を癒すこと。十年後のアイグレッテみたいに、苦しい事を、最初っからゼロにするんじゃない。そんな世界で生きた奴は、何も学ぶ事がないからな」
「………」
「停滞した歴史の中で、何の起伏もなく生きて、死ぬだけだ。悩みも迷いも成長もない人生って、本当に生きてるって言えるのか?」

そう言って立ち上がると、カイル達に、そろそろ行くぞ、と声を掛ける。

「俺は昔、最初で最後に伸ばされた手を放しちまったことがある。助けて、って言ってたのに、助けられなかった。あんな思いは二度もしたくない」


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あきゅろす。
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