2 「よく来ましたね。我が聖女たちよ……」 「……?」 「…………いやいやいや、ちょっと待て。聖女“たち”ってどういう事だ」 すかさず声を荒げたレイスだが、フォルトゥナはそれに動じることなく微笑み続けている。 「言葉のままです。あなた達、リアラとエルレイン、そしてレイスは、私の聖女なのですから」 フォルトゥナのそのセリフに、息をのむ仲間達。 「言い掛かりもいいところだな。誰が聖女だ?俺は男だっつーの!」 「そこかよ!!」 ロニが思わずツッコミを入れた。 「まぁ、色々と腹は立つが冗談はこんくらいにして」 「……神の存在以前に、この状況で冗談を言えるお前が信じられん」 ジューダスのぼやきをさらっと無視して、今度こそ真剣に向き合うレイス。 「で、どういう理由で俺を、その……聖……女、だと?」 「言うの嫌そうだなぁ〜」 「あなたは、リアラ達と同じ存在。同じ力を持ち、そして……人々の幸せを求めている者。私は知っていますよ、彼が死んだ時に誓いを立てた、あの瞬間を」 彼の死、おそらくリオンの事を言っているのだろう。 「腹が立つぐらい何でもお見通しってか。プライバシーのかけらもないな」 「同じ存在、同じ力。目的も同じ。ならば、あなたも私の聖女です」 「俺は……」 レイスは、ずっとリアラが縋るような目で見ているのに気付いていた。彼女は求めているのだ。共に歩んでくれる、自分と同じ存在を。 レイスがイエスと言うのを望んでいるのだ。 (でも、ゴメンな) 「俺は、違う。存在は似ているかもしれないが、全く同じじゃない。お前の聖女はリアラとエルレイン、二人だけだ」 リアラが横で落胆も露にしているのがわかった。だが、仕方ない。これは変えようのない事実なのだから。 「ま、待ってよ!聖女とか、同じ存在とか、どういうこと!?」 「それは……」 「二人の聖女は、私の代理者。人々を救いへと導く存在です」 声を詰まらせたリアラの変わりに、フォルトゥナが話してしまう。 「神の……代理!?」 「人々の救いを求める想いが、私を、そして、二人の聖女を生み出したのです。一人はエルレイン。そしてもう一人は、そこにいる、リアラ……二人は違う道を歩み、それぞれ人々の救いの姿を探し求める旅に出たのです」 フォルトゥナの言う驚愕の事実に、一瞬言葉を失ってしまうカイル達。 「じゃあ、エルレインがやろうとしてるのが、人々の救いだってのか!?」 「そんなの……ウソだ!!だってアイツは、ウッドロウさんをバルバトスに襲わせたり、レンズを奪ったりしてたじゃないか!!」 フォルトゥナは、カイルの怒りにも何も感じる事なく、微笑みを浮かべたまま答えを返す。 「エルレインは、結果としてそれが人々の救いに繋がると思ったのでしょう」 「そんなの間違ってる!だって、現にウッドロウさんもハイデルベルグの人たちも大変な目に遭ってたじゃないか!!」 その時、初めてフォルトゥナは表情に変化を見せた。心底分からないという顔をして、逆にカイルに問い掛ける。 「間違っている。なぜそう思うのですか?アイグレッテの人々は皆、安全で快適な街の中で最高の幸せを享受しています」 「確かに、何にも知らなければあれも幸福かもしれないね。けどさ……生きてるって実感をなくしちまうのは、本当に幸福なのかい?」 ナナリーの叫びは、そのまま自分の心の自己防衛。あの時、ルーをホープタウンへ連れて行ったという選択が、間違ってはいなかったんだと再確認するための。 「そうだよ、やっぱり間違ってる!エルレインもフォルトゥナも……おかしいよ!リアラだってそう思うだろ!?」 「私だって……」 リアラが、悲痛な声で呟いた。 「私だって、エルレインは間違ってると思うわ。でも、エルレインには力がある!あの人のおかげで、幸せだと感じている人達もいる!!……けど、私には何の力もない。英雄だって、いない!!誰一人幸せにしていないし、どうやれば、幸せにできるのかも……分からないもの……」 だんだんと叫ぶような訴えになってきたリアラの姿に、カイルは悲しみが強くなってくる。 どうして自分達がそばにいるだけではダメなのかと。 どうして、英雄でなければならないのかと。 「だって、リアラはすごい力を持ってるじゃないか!それに、俺達だってついて……」 「やめて!!何も分からないくせに、無責任な事言わないでよ!!使命を負う事の重さも、本当の力がどんな物かも!!」 「そんなことない!!」 そして、とうとう言ってしまった。 「分からないわ!!だってカイルは聖女でも……英雄でもないじゃない!!」 お互いが、最も傷つく一言を。 「………、っ!」 「………!」 室内が、重たい雰囲気に包まれる。 そんな中、声を発したのはレイスだった。 「フォルトゥナ、俺たちを十年前に送ってくれ。できるんだろ」 フォルトゥナは小さく頷く。そして、もう一度レイスに問い掛けた。 「あなたは、私の下で人々の幸福を探さないのですか?」 「わざわざ探すまでもないな。俺はとっくに見つけてるし、ここに来るまでの間で何度も自分自身に問い掛けて答えを得た。しつこい勧誘はお断りだ」 そう言った途端、リアラが驚きの目でレイスを見る。だが、何かを問い掛けようとした時、フォルトゥナが時空間転移の力を使い、辺りは光に包まれてしまった。 最後に聞こえたのは、フォルトゥナの優しげな、それでいて何の起伏もない声。 「あなた方に幸運があらん事を。全てが終わった後、また会いましょう、リアラ。そして、世界が生み出した存在よ……」 [back][next] [戻る] |